東日本大震災における理化学研究所の活動総括

危機管理対策本部長メッセージ 科学技術を通じた復興貢献活動を

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、宮城、福島、岩手の東北3県を中心に、東日本各地に大きな被害の爪痕を残しました。

これまで経験したことのない災害に際し、理化学研究所では、地震発生直後、危機管理対策本部を組織しました。震災後の被害状況の把握、早期の研究活動再開に向けた取組みの検討、そして、広く被災地の復旧復興に向けての施策の推進など、極力、迅速な対応が図られるよう努めました。

理研は埼玉県和光市をはじめ、仙台市、つくば市、横浜市と、東日本に4つの拠点を構えています。幸いなことに理研の職員(直接雇用以外の職員も含む。)の無事は確認できました。その一方、研究施設や実験機器の被害は1億5千万円を越え、一部の研究活動については、その一時中断を余儀なくされました。

このような状況の中、野依理事長は震災直後に「人命の確保を最優先するとともに、科学技術を通じて、社会の要請に応え、最大限の貢献をする」というメッセージを掲げました。危機管理対策本部は、この野依理事長の決意のもと、被災地への復興貢献活動に科学技術を通じて微力ながら尽力してまいりました。

福島県の原子力発電所事故に対しては、仁科加速器研究センターを中心に、大学の研究者等と連携協力して、多くの放射線のスペシャリスト達が現地に赴き、日夜、被災された方々の被ばくスクリーニング調査や不安を解消するための被災者への相談活動を行いました。また、和光キャンパス内に設置されている「放射線モニタリングポスト」の測定値を、毎日WEB上で公開し、地域の皆様への正しい環境放射線量の情報提供に努めるとともに、地元自治体からの要請に応え、放射線測定器の貸出しを実施してまいりました。

また、復興貢献活動のひとつとして研究担当理事を委員長に「若手人材育成復興貢献委員会」を設け、被災地の大学の学生や若手研究者が研究を継続することができるよう理研の研究施設で受け入れる等の支援を行いました。これは、被災し、厳しい環境に身を置く若い研究人材を勇気づけるとともに、震災によって次世代を担う人材の育成を停滞させてはならない、という理研の研究者たちの強い思いにより進められたプロジェクトです。東北地方の大学と連携し、震災後すぐに受入れを開始し、平成23年度は学生10名、客員研究員4名を理研に迎え入れることができました。また、研究資材・バイオリソース等の無償提供・貸付を行うとともに、被災大学等で実施できなくなった実験に関して理研施設による代替実験機会を提供する等の取組みを実施したところです。

計画停電、そして夏期に実施された電気事業法に基づく電力使用制限は、理研の研究活動にとっても大きな試練の一つでした。研究活動は多くの電力に支えられるものであり、計画停電や電力使用制限は研究にも多大な影響を及ぼします。そのような厳しい状況の中で、震災直後の計画停電実施時期には、和光事業所の加速器設備とスーパーコンピュータの一時停止を決断しました。また、夏期の電力使用制限時には、国の機関として率先して節電に励むべく、和光事業所をはじめとし、筑波、横浜の各事業所で「節電対策検討委員会」を設置し、職員一丸となり節電に取り組みました。結果として、電力使用量の15%削減という目標に対し、和光、筑波、横浜の東京電力管内の事業所において、その目標削減値を達成しました。

危機管理対策本部は平成23年8月31日、一定の役割は果たしたとの認識のもと解散しましたが、復興への道のりはまだまだ半ばです。引き続き、科学技術を通じて復興貢献活動に注力する所存です。

理化学研究所 理事(危機管理対策本部長)
藤田 明博

震災発生後の理研の主な活動

危機管理対策本部では、3月11日の震災以来、藤田危機管理対策本部長を統括とし、震災後の対応に関し、人事上の取扱いや被災した大学院生等の理研への受入、節電対応等必要な対策を講じてきました。主な対応は以下の通りです。

日付 震災対応
3月11日 「危機管理対策本部」を設置。被害状況の把握、700名を越える帰宅困難者の対応に努める。
3月14日 ・野依理事長のメッセージを所内外に発信。
・文部科学省からの要請に基づき、放射線測定機器及び放射線測定器用消耗品を福島県に搬送。
・和光事業所内のモニタリングポストによる測定値をHP上で公開。
・計画停電開始に伴い、一部の大型実験設備の停止。
3月21日 福島県地震対策本部の要請により、放射線汚染のある被災者に対する測定を開始。以降、5月まで、福島県内において被ばくスクリーニングを実施。
3月22日 義捐金の募集を開始。(3,736,022円の義捐金が寄せられ、6月22日に日本赤十字社義捐金口座へ振込。)
4月8日 和光地区節電対策検討委員会の設置。和光地区における節電計画の検討。
4月22日 被災学生の受入を開始。
5月9日 被災学生に対し、構内の宿泊施設の入居受入を開始。
5月31日 提携海外機関への被災学生の派遣制度を開始。
8月22日
 ~24日
ピーク時の電力抑制を目的とし、夏季休暇の一部を一斉休業とした。
8月31日 危機管理対策本部解散。

震災発生直後の早期の関係者の安否確認や、情報伝達手段の分散化、外国人へのスムーズな情報提供、また、日頃からの職員の防災意識の向上や、地域との連携等、引き続き検討していかなくてはなりません。