「理化学研究所は、科学技術を通して“人類社会の存続”に貢献します。」これは野依理事長の巻頭言です。理化学研究所の職員が日々心に刻んで活動して行くことへのメッセージだと思います。本報告書には、環境理念、環境行動指針が明確に表現されています。そしてそれらを推進するのが環境会議だと思います。本報告書は、環境マネジメント体制のことに触れられてはいますが、2008年設立された環境会議の活動内容が明示されていません。各年度の報告書の継続性が必要と思います。
具体的に改善が必要な点として、たとえば、大気汚染のNOX濃度の測定結果は具体的に数字で示されており評価できますが、規制値以下であっても、さらにその濃度を低減する具体的な施策の明示が必要かと思います。グリーン購入法対策をみても、過去5年の推移のなかで、前年より数字が低下している文具類や照明などについても、次年度についてはどのような対策を立てるのかの考察も必要と思われます。PRTR法報告対象物質以外の化学物質について、具体的にどのような数値目標が設定されているのかも不明です。安心できる報告とするためには、もう一段の改善が必要です。環境研究紹介の「オーキシン」生合成主要経路の解明は、やや専門的すぎるので、より広い層の人々に伝わるような工夫も必要かと思います。昨年まで続いていた各事業所の所長のメッセージが割愛されていますが、環境に対する意思を職員に伝える意味でも継続されることをお勧めします。
良かった点として、各事業所のアクションプランの実施状況報告があげられます。ただ総括が抜けているものも散見されます。また、未達成の項目については、具体的なプランの記入が必要です。実際の活動では東日本大震災後の放射線のモニタリングと放射線量の日々の発表は、職員だけでなく、その家族や近隣の住民の方々にも安心感をあたえる活動であったと思います。特に本国から帰国勧告の出ていた外国人職員には、正しい情報提供という観点からも評価できると思います。トピックスとしての「国際植物の日」は、日頃の理化学研究所の活動を職員をはじめとして、様々な方々にご理解いただけるよいきっかけになったのではないかと思います。アニュアルレポートや新聞記事だけではなかなか理解しにくい我々の活動が、このような報告を通して各方面の方々も身近に感じていただくことができて、理化学研究所のブランドの向上とPRに寄与できることと思います。また地域コミュニケーション報告は今後も続けていただきたいと思います。
今後もCSR(Corporate Social Responsibility)活動の一環としての環境報告書は重要になってきます。活動内容を充実させて、「人類社会の存続に貢献できる」というしっかりとした理念をもつ理化学研究所であり続けていきたいものです。
独立行政法人理化学研究所
監事 魚森昌彦