多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明究領域略称:細胞運命制御

組織・研究内容

研究課題名
形質細胞分化運命決定におけるMAPKシグナルの役割

早川 文彦
研究代表者
早川 文彦
名古屋大学医学部附属病院血液内科・助教
研究室HPE-mail

研究内容

 本研究の目的は成熟B細胞から形質細胞への分化という運命決定におけるB cell receptor(BCR)シグナルの役割を明らかにすることにある。多能性幹細胞から始まって形質細胞に至るまでのB細胞分化はIkaros、PU.1から始まりE2A、EBF、PAX5、BLIMP1、XBP-1と引き継がれるB細胞分化制御因子により制御されている。この中で、B細胞の終末分化である形質細胞分化は胚中心B細胞において、そこまでのB細胞分化を牽引してきたPAX5とその後の形質細胞分化を担うBLIMP1が入れ替わる事により開始される。形質細胞分化の契機である抗原とBCRの遭遇から始まるBCRシグナルからPAX5, BLIMP-1の入れ替わりまでのメカニズムを明らかにしていく。更にはその運命決定の破綻がリンパ性白血病や、リンパ腫などのリンパ系悪性腫瘍の発症にどのように関与しているかを明らかにしていく。
多能性幹細胞から始まって形質細胞に至るまでのB細胞分化はIkaros、PU.1から始まりE2A、EBF、PAX5、BLIMP1、XBP-1と引き継がれるB細胞分化制御因子により制御されている。この中で、B細胞の終末分化である形質細胞分化は胚中心B細胞において、そこまでのB細胞分化を牽引してきたPAX5とその後の形質細胞分化を担うBLIMP1が入れ替わる事により開始される。PAX5はpro B細胞から成熟B細胞まで発現する転写因子で、そこまでのB細胞分化を牽引すると同時にMCSF-R、Notchといった他系統への分化のマスター因子の発現を抑制しB細胞の系統維持にも働いている。更にPAX5はBLIMP1、XBP-1の発現も抑制し適切な状況になるまで形質細胞分化が始まらないようにB細胞分化の速度を抑制する役割も担っていると考えられている。形質細胞分化は胚中心においてBCRが抗原と遭遇し強いBCRシグナルが発生する事により始まるとされており、PAX5の発現が消失しBLIMP1、XBP-1の発現が上昇する事で形質細胞分化が進んでいく事が分かっている。BLIMP1は転写抑制因子でPAX5の発現を抑制する作用があることが知られており、両者は互いが互いを抑制し合いどちらか一方しか発現できない関係にある。早川らはこれまでに、胚中心B細胞のBCRが活性化するとMAPキナーゼによりPAX5がリン酸化され、それがPAX5によるBLIMP1発現抑制を解除しBLIMP1の発現を誘導する事を示した(下図)。一旦BLIMP1が発現するとそれはPAX5の発現を抑制し両者の力関係は逆転したまま固定化され形質細胞分化が開始される契機になると考えられる(Yasuda T et al, J Immunol, 2012; 188:6127-6134)。更にB細胞における抗アポトーシス因子であるBCL6とBLIMP1の間にも互いが互いの発現を抑制し合う関係があることが知られているが、他の研究者らにより、BCR刺激はMAPキナーゼを介してBCL6をリン酸化し、 BCL6のデグラデーションを引き起こすことが報告されている 。
 今回の研究ではPAX5、BCL6以外にBCRからのシグナルでリン酸化される因子の同定を進めると共に、MAPK以外のBCRシグナルでPAX5等をリン酸化するキナーゼについても探索を進めBCRシグナルを契機とする形質細胞分化の機序を分子レベルで解明していく。また同時にこれらメカニズムを破綻させるような変異が悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、急性リンパ性白血病等リンパ系悪性腫瘍で起きていないかを探索し、疾患病態の解明につなげていく。

主な論文

* correspondence
研究代表者
早川 文彦

Yasuda T, *Hayakawa F, Kurahashi S, Sugimoto K, Minami Y, Tomita A, Naoe T.
B cell receptor-ERK1/2 signal cancels PAX5-dependent repression of BLIMP1 through PAX5 phosphorylation: a mechanism of antigen-triggering plasma cell differentiation.
J Immunol. 188: 6127-6134, 2012. Kurahashi S, *Hayakawa F, Miyata Y, Yasuda T, Minami Y, Tsuzuki S, Abe A, Naoe T. PAX5-PML acts as a dual dominant-negative form of both PAX5 and PML.
Oncogene. 30: 1822-1830, 2011. *Hayakawa F, Abe A, Kitabayashi I, Pandolfi PP, Naoe T.
Acetylation of PML is involved in histone deacetylase Inhibitor-mediated apoptosis.
J Biol Chem. 283: 24420-24425, 2008

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