多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明究領域略称:細胞運命制御

組織・研究内容

研究課題名
造血幹細胞におけるMafBの機能解析

高橋 智(たかはし さとる)
研究代表者
高橋 智(たかはし さとる)
筑波大学・医学医療系・教授
筑波大学生命科学動物資源センター・センター長
研究室HPE-mail

研究内容

 本研究では、造血幹細胞からの運命決定に関与すると考えられるMafB遺伝子について、既に作製されているMafB領域GFPノックインマウスを用いて、1. MafBが造血幹細胞において、単球・マクロファージ系列への分化を調節する機能を有しているか、2. GFPを発現している造血幹細胞の亜集団は、Dykstraらが報告している骨髄球系に分化傾向を有するα細胞と呼ばれる集団存在であるか、3. GFPを発現している造血幹細胞の亜集団における遺伝子発現を解析し、その集団に特異的な遺伝子発現が存在するかを解明する。
 我々は以前より、細胞の分化決定におけるlarge Maf群転写因子の機能解析を行ってきたが、その研究の中でc-Mafが間葉系幹細胞に発現しており、c-Mafの発現が高くなると転写因子Runx2と共同して、骨芽細胞への分化を促進するとともに、転写因子C/EBPの機能を抑制して脂肪細胞への分化を抑制することを明らかにした(Nishikawa K, et al. J Clin Invest, 2010)。このことは、間葉系幹細胞でのc-Mafの発現が細胞の運命決定を制御していることを示している。一方フランスのSiewekeらの研究グループは、MafBが造血幹細胞に発現しており、M-CSF受容体からのシグナルを制御することにより、単球・マクロファージ系列への分化を調節していることを報告した(Sarrazin S, et al. Cell, 2009)。この報告は、細胞内の内部環境が、細胞外からのサイトカインシグナルの感受性を調節することにより、その運命決定を制御していることを明らかにしたもので、造血幹細胞の運命決定はinstructiveであるとの証拠を提示したものとして注目され、特集記事が組まれている(Stanley ER, Cell Stem Cell, 2009)。このようにlarge Maf群転写因子は、組織幹細胞から細胞運命決定に寄与していると考えられるが、その詳細な分子機構については明らかにされてはいない。我々の研究グループでもMafB遺伝子領域にGFPを挿入することにより、MafBの発現をGFPでモニターできる遺伝子欠損マウスを作製し、そのマウスを用いてMafBの造血細胞分化における解析を行い、MafBがマクロファージの最終分化に必須であること(Moriguchi T, et al, Mol Cell Biol, 2006)、また血液幹細胞からマクロファージ系の細胞である破骨細胞への分化を抑制し、単球・マクロファージ系細胞への分化を促進することを明らかにしてきた(Nishikawa K, et al. Proc Nat Acad Sci, 2010)。また本研究領域のこれまでの解析で、MafB領域GFPノックインヘテロマウスのGFP陽性造血幹細胞は、Dykstraらが報告したリンパ球系に分化傾向を有するγやδ細胞(Dykstra B et al. Cell Stem Cell, 2007)であることを骨髄移植により明らかにした。Siewekeらの結果と考え合わせると、MafBはγやδ細胞に発現し、そのリンパ球系への分化を促進しており、MafBが欠損することで、その促進機能が失われ、骨髄球系への分化が促進されるのではないかと予想される。実際に、MafBをマウスSca-1陽性分画に発現させるとB細胞系列の遺伝子発現が誘導されることが報告されている(Vicente-Dueñas C, et al. EMBO J. 2012)。我々のMafB領域GFPノックインマウスは造血幹細胞の亜集団の解析およびその運命決定機構の解析に非常に有用なツールであり、このマウスを用いることにより、プロスペクティブな解析を実施する。

主な論文

* correspondence
研究代表者
高橋 智(たかはし さとる)

Hishida T, Nozaki Y, Nakachi Y, Mizuno Y, Okazaki Y, Ema M, Takahashi S, Nishimoto M, and *Okuda A.
Indefinite self-renewal of ES cells through Myc/Max transcriptional complexes-independent mechanisms.
Cell Stem Cell. 9:37-49, 2011.

Kusakabe M, Hasegawa K, Hamada M, Nakamura M, Ohsumi T, Suzuki H, Kudo T, Uchida K, Ninomiya H, Chiba S, and *Takahashi S.
c-Maf is indispensable for the microenvironment of definitive erythropoiesis as it forms erythroblastic islands in fetal liver.
Blood 118:374-1385, 2011.

Morito N, Yoh K, Maeda A, Nakano T, Fujita A, Kusakabe M, Hamada M, Kudo T, Yamagata K, and *Takahashi S.
A novel transgenic mouse model of the human multiple myeloma chromosomal translocation t(14;16)(q32;q23).
Cancer Res. 71:339-348, 2011.

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