多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明究領域略称:細胞運命制御
研究課題名
造血幹細胞の異系列分化と造血器疾患との関連
研究内容
哺乳動物の各種臓器の中で、生体で最も固い組織である骨に完全に覆われて強固に保護されている組織は、脳と骨髄のみである。すなわち、造血の場である骨髄は、生命の恒常的維持において脳と同等の最も大切な高次組織と捉えることができる。骨髄にとって骨は単なるプロテクターではなく、一見無関係なように思える「骨代謝」と「造血システム」は、最近にわかにその深い関係がクローズアップされるようになった。我々は、脳からの交感神経シグナルが骨芽細胞性造血幹細胞ニッチを制御することにより、間接的に造血幹細胞の運命が脳で支配されている構図すなわち、「脳・骨・血液連関」の概念を確立し発展させてきた (Immunity 2003, Cell, 2006, Blood 2010, Cell Stem Cell 2013 (in press))。我々の研究のみでなく、このジャンルの世界的な知見の蓄積により、造血制御機構解析における骨代謝研究の視点はもはや不可欠のものとなっている。
正常造血のみでなく、血液内科臨床において遭遇する造血器疾患の中でも、骨代謝とかかわりがあるであろうと臨床医は薄々感じているものがある。その一つが、「骨髄線維症」であり、線維芽細胞により骨髄腔が占拠され、骨髄中の造血の場が失われ、脾臓などでの髄外造血がおこる疾患である。臨床経験としても教科書的にも、骨髄での線維芽細胞の増勢と骨梁の増加は骨髄生検組織で明らかであるが、これがなぜか、またなぜこれだけ造血環境が破壊されていても骨髄移植で治癒させられる症例があるのか、について、なんら臨床医は知識を持たずに日々の診療を行っている。そもそも骨髄線維症における線維芽細胞とは何であるのか、またその由来は、といった極々単純な疑問も臨床においては放置されたままである。これらの諸問題を、これまで培ってきた造血幹細胞研究の手法を用いて明らかにし、本疾患の真の病態生理を明らかにし、新たな治療法の開発への礎とすることを本研究の目的とする。
主な論文
- 片山 義雄
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Asada N, *Katayama Y, Sato M, Minagawa K, Wakahashi K, Kawano H, Kawano Y, Sada A, Ikeda K, Matsui T, Tanimoto M.
Matrix-embedded osteocytes regulate mobilization of hematopoietic stem/progenitor cells.
Cell Stem Cell (in press) 2013Kawamori Y, Katayama Y, Asada N, Minagawa K, Sato M, Okamura A, Shimoyama M, Nakagawa K, Okano T, Tanimoto M, Kato S, and *Matsui T.
Role for vitamin D receptor in the neuronal control of the hematopoietic stem cell niche.
Blood. 116: 5528-5535, 2010.Katayama Y, Battista M, Kao WM, Hidalgo A, Peired AJ, Thomas SA, and *Frenette PS.
Signals from the sympathetic nervous system regulate hematopoietic stem cell egress from bone marrow.
Cell. 124: 407-421, 2006.Katayama Y, and *Frenette PS.
Galactocerebrosides are required postnatally for stromal-dependent bone marrow lymphopoiesis.
Immunity. 18: 789-800, 2003.