研究トピックス in 2013

生体分子の翻訳後修飾を含めた詳細な構造解析

生体分子の定量的解析法の開発

RNAの質量分析

生体分子の翻訳後修飾を含めた詳細な構造解析
 (堂前,鈴木,渡邊,郭)

ゲノムに暗号化された遺伝情報はRNAに転写された後、タンパク質に翻訳され生合成される。多くのタンパク質はこの遺伝情報どおりにアミノ酸が並んだポリペプチドとして翻訳された後に何らかの修飾を受けることで生物活性が生じ、また活性を制御されている。この遺伝情報に直接記載されない、タンパク質独自の情報=翻訳後修飾を解明することがポストゲノムシークエンス時代のタンパク質の構造解析への要求である。また、バイオプローブを用いたケミカルバイオロジー研究を始め、低分子薬剤のタンパク質結合位置の解析にも構造解析への大きな要求がある。しかしこれらの修飾部位解析や薬剤結合部位解析を含めた詳細で精密な構造解析は大変困難な課題として残されている。エピゲノム研究でもヒストンやノンヒストンタンパク質の翻訳後修飾が遺伝子発現を制御しているのではないかと注目されている。我々は、翻訳後修飾に関連した構造解析法の開発を行いつつ、その応用研究を行っている。

昨年度から、B型肝炎創薬実用化等研究事業「次世代生命基盤技術を用いたB型肝炎制圧のための創薬研究 」に参加して、B型肝炎感染における網羅的な翻訳後修飾解析をスタートしている。本年度は、一般的なターゲットの修飾のみを精製後に解析する従来のモディフィコーム解析ではなく、網羅的に全ペプチドを解析後に、翻訳後修飾ペプチドのみを抽出するノンターゲットモディフィコーム解析を試みた。この方法では、修飾ペプチドの増減ばかりか、翻訳後修飾のレベルの増加(タンパク質全体の発現量と修飾ペプチドの比)を見ることができ、修飾の増減とタンパク質の発現の増減の差を知ることができた。

non-targeted modificomics

また、次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラムでは、東京大学・シカゴ大学と共同でがん関連メチル化酵素がメチル化する部位の同定を行った。東京大学理学研究科と共同で、SecYEと協同して働く膜タンパク質YidCの結晶解析でタンパク質分子中に観察された電子雲について、その化合物の同定作業を行った。京都大学ウイルス研究所と共同で「膜タンパク質の組立と分解に関わる新規プロテアーゼを発見」し、プレスリリースを行った。

生体分子の定量的解析法の開発 (鈴木,堂前,川田,久保田,椎名)

タンパク質の翻訳後修飾によるエピジェネティックな遺伝子発現制御の研究などでは、翻訳後修飾の種類や修飾場所だけではなく、絶対量が重要である。我々は質量分析による定性的な解析に加え、相補的に活用できる絶対定量法として、超高感度のアミノ酸組成分析法、および2次元HPLC法による選択的な翻訳後修飾解析手法を確立した。前者では200フェムトモル(10ナノグラム程度)の極微量タンパク質を加水分解し、正確に構成アミノ酸を定量できているか評価し論文として発表した。また、多量に共存する未修飾アミノ酸と分離し、極微量の翻訳後修飾を検出するために、加水分解後のサンプルから修飾アミノ酸を含む画分のみを得るため、クロマトグラフィーの2次元化を行った。

さらに、新しいタンパク質加水分解法として、固体酸触媒を用いた方法について、引き続き高耐熱性の触媒について分解効率などの検討をおこなった。このような微量分析技術により、放射光科学総合研究センター新海暁男先任研究員らと共同研究で、細菌が持つ免疫システムを担う巨大な分子複合体であるCmr複合体の構造と機能解明に貢献したほか、システム糖鎖生物学研究グループ・鈴木 匡TL:トリプトファンの定量、東京大学・浜本隆二助教:メチル化リジンおよびメチル化アルギニン定量、などの共同研究を行った。

RNAの質量分析(中山、小池)

私達は、RNAをタンデム質量分析データとゲノムなどのDNA/RNA配列データベースのみから同定できる検索ソフトウェアAriadneを開発してきた。今年度はmiRNAの直接解析および同定が可能になるようにAriadneの機能拡張を行った。

お知らせ

RNAデータベース検索ソフトAriadneはこちらからアクセスできます。


2001年以降の研究内容