(1) SMCタンパク質の分子メカニズム
SMCタンパク質は、バクテリアからヒトまで保存されているATPアーゼ・ファミリーです。反平行のコイルド・コイルによって折り畳まれたSMCタンパク質は、『ヒンジ』と呼ばれる部位で会合することによって2量体を形成し、特徴的なV字型構造をとります。その両末端には、ATP結合部位である『ヘッド』部位が形成されます(図A)。多くのバクテリアでは1種のSMCタンパク質がホモ2量体を形成しますが、真核生物では少なくとも6種のSMCタンパク質が存在し、それらが特異的な組み合わせにより3種類のヘテロ2量体をつくります。各SMC2量体は、それぞれに固有なnon-SMCサブユニットと結合することにより、ホロコンプレックスを構成します。たとえば、SMC1とSMC3のペアはコヒーシン複合体のコアとして働き、SMC2とSMC4のペアはコンデンシン複合体の触媒サブユニットとして機能します(図B)。
このユニークな構造をとるSMCタンパク質(およびその複合体)は、どのようにしてDNAと相互作用してその構造変換と維持を担うのでしょうか?またその過程において、ATPの結合と加水分解はどのような役割を果たしているのでしょうか?こうした問題を理解するため、私たちは生化学・生物物理学・構造生物学的アプローチを駆使して、SMCタンパク質の作用メカニズムについて研究を進めています。コンデンシンとコヒーシンを比較解析することに加え、バクテリアのSMC複合体をモデル系としてSMCタンパク質の基本メカニズムを解明する努力を続けています。