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細胞内情報伝達システムの1分子解析

a. 上皮成長因子と膜受容体の結合、受容体の動的会合態体形成と情報伝達

細胞膜上でのEGFR-GFP 1分子像

細胞増殖反応に関わる上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor: EGFR)が情報伝達反応において、どのような構造や動態を通じてその役割を果たしているかを、蛍光標識したEGFRやEGFの1分子を細胞で可視化する手法を用いて研究している。現在までに、

  1. EGFで細胞を刺激すると、受容体と結合したEGF分子の約3倍量の受容体分子がリン酸化され活性化することが、活性化型受容体が形成する会合体数の増加と共に観察された。これは細胞内信号の増幅過程が、会合体同士の相互作用を通じたダイナミックな構成分子の交換反応を通じて行われていることを示唆している。

  1. 1分子計測の結果から提唱された EGFR/EGFR 2量体の構造変化モデル

    EGFとEGFRの結合およびEGF、EGFR各2分子からなる情報伝達2量体の形成について、1分子計測とキネティクス解析を行い、結合過程での新規中間体の存在を示した。同時に決定した各反応の速度定数を用いた数理モデル解析により、2量体形成の反応スキームと各素過程の速度定数を推定し、数万ある細胞膜上EGFRの1-2%が特にEGFへの結合速度が大きいこと、EGF 1分子が結合したEGFR 2量体がより結合速度の大きい中間体へ変化し、ごく低濃度のEGF存在下でも2量体の形成反応が加速されて高感度な細胞応答を実現していることを示した。

b. 神経成長因子/受容体複合体の動態と情報伝達

細胞膜上でのEGFR-GFP 1分子像

神経細胞分化や伸長に関わる神経成長因子(Nerve growth factor: NGF)とその受容体の複合体の細胞膜における動態と情報伝達反応の1分子計測を行っている。PC12細胞では、複合体は細胞膜上をランダムに動き回りながら、細胞内に取り込まれるまでの数分のあいだ間歇的に細胞質の情報伝達蛋白質と複合体を形成して情報を伝えている。情報伝達複合体はNGF, NGF受容体(TrkA, p75), Shc, Grb2, Sos, Ras, Raf1といった多くの蛋白質を含むと予想されるが、ほとんどひとつの律速反応で形成されるといったことが明らかになっている。

c. RasとRafの情報伝達反応

Raf
GFP-Rafの細胞内1分子観察

細胞内情報伝達タンパク質RasとRafの相互作用は、細胞の増殖や分化にかかわる情報伝達反応の重要な過程の一つである。私たちは、生きた細胞内で情報伝達反応中の分子の挙動を1分子毎に見て、RasやRaf分子の運動速度や、RasとRafの相互作用時間、また、これらの反応の細胞膜上の空間的な偏りや反応開始からの経過時間による変化を計測し、RasからRafへの情報伝達反応を定量的に調べている。

細胞は不均一な構造をとっている。この試験管内とは異なる反応空間で、Ras/Raf情報伝達反応が不均一に起こり、反応が集中している局所的な領域では他の部位と違う種類の反応が起きていることが分かってきた。