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研究テーマ

細胞内反応ゆらぎとその伝達に関する研究

a. 上皮成長因子による細胞内カルシウム応答

EGFは細胞内に一過性のカルシウム濃度上昇をもたらす。細胞に結合したEGF分子数とカルシウム応答を示す細胞の割合の関係を計測したところ。細胞あたり300分子の結合でカルシウム応答が起こることがわかった。cAMPに対する細胞性粘菌の走化性応答は細胞当たり約400分子(前後比では10分子以下)、神経成長因子(NGF)による神経細胞成長円錐の伸展は40分子の情報入力で起こる。このように少ない分子数の入力で細胞内情報伝達経路が応答することは、細胞の情報処理において数のゆらぎの効果が無視できないことを意味している。

EGF / calcium
HeLa細胞に結合した蛍光EGF(左)による細胞内カルシウム応答(右)。蛍光強度の上昇はカルシウム濃度の上昇を示す。

b. 上皮成長因子受容体とGrb2の認識反応

EGF受容体とGrb2の親和性は、Grb2濃度に依存して変化する。

EGFRとアダプター蛋白質Grb2の相互作用を1分子計測し、反応速度論解析を行った。結合、解離とも多状態反応であり、特に結合反応速度は異なった反応速度定数を持つ多くの解離状態の分布と、状態間の遷移により決定されている。結合反応はGrb2濃度が上昇するにつれて起きにくくなっており、反応記憶の存在も示唆された。Grb2との相互作用によってもたらされたEGFR分子の構造変化が遅い緩和過程を持つことにより、次回の結合を起こりにくくしている可能性が考えられる。この反応の濃度依存性はGrb2濃度変動による情報伝達の変動を抑制する効果を持っており、膜蛋白質分子の構造ゆらぎが細胞内情報伝達反応に利用されていることを予想させる。

c. 細胞内反応ゆらぎの伝達

分子認識反応のゆらぎ

RTK-Ras-MAPKシステムにおいて、RTK(EGFRやNGFR)の活性化はリン酸化型RTKに結合するGrb2やShcの細胞質から細胞膜への局在変化、Rasの活性化はRafの細胞質から細胞膜への局在変化、ERK(MAPK)の活性化はERK自身の細胞質から核への局在変化で、それぞれ可視化計測することができる。1分子レベルの反応検出能により、反応ネットワークの様々な段階での分子認識ゆらぎを定量することで、細胞内反応ゆらぎの伝搬を調べている。ゆらぎの性質を調べることにより、細胞がゆらぎを克服する方法、ゆらぎを利用する方法を探る。