量子情報処理の基礎実験では、近年量子制御の精度が急速に向上してきており、また理論においてはシステムを構築するための大規模な量子計算アーキテクチャーの開発の発展が目覚ましい。このような研究成果によって、大規模な量子情報処理システムの実現化を現実的に議論することが可能となりつつある。実際、誤り耐性をもつユニバーサルな量子計算が必要とする精度は、トポロジカル誤り訂正を用いることによって、実験系で到達可能になってきている。近い将来には多数の量子ビット列を実現できることを考えると、これらを制御するために、大規模な量子コンピュータに生じる古典的なプログラミングの問題に対処する必要がある。
既存の量子コンピュータのアーキテクチャーのほとんどはトポロジカル量子計算に基づく。この量子計算モデルは、大規模な量子コンピュータに不可欠である誤り訂正を計算モデルに包含しているという性質や、その動作の仕方に大きな特徴がある。物理系としての量子コンピュータの心臓部は実際には「情報処理」を行うことなく、10億といった数の量子ビット上に量子状態を作り出すことのみを行っており、多数の量子ビットを用いて誤り耐性のある計算に必要なすべての性質を担った「世界」を作りだす。量子力学は不思議な性質をもつが、その原理に基づくコンピュータも同様に不思議なところがあると言えよう。
実際の「情報処理」は、量子コンピュータの心臓部がはき出す量子ビットを切り捨てていくことによって進む。量子ビットを意図的に切り捨てることで、量子回路が実行されるが、これはこのトポロジカル量子コンピュータが作り出す「世界」上で3次元のトポロジカルな構造が構築されることと対応する。本研究課題では、このような量子コンピュータをプログラムするソフトウエア言語の構築を目指し、量子アルゴリズムをトポロジカル計算モデルが必要とする必須パターンへ変換することを可能にする。
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