研究内容
モットロニクス基礎サブテーマリーダー:川﨑雅司
- モットロニクスとは、強相関電子系の金属-絶縁体相転移(モット転移)を高速の状態変数スイッチとして活用する電子技術学理です。この研究分野は本中心研究者の提唱にはじまり、強相関エレクトロニクス、あるいはN.F.Mott博士(1977年ノーベル物理学賞)にちなんでモットロニクス(Mottronics)と呼ぶことが提案されています。強相関電子の特徴は、多数の電子の秩序が一気に融解するモット転移にもっとも顕著に現れます。既にこの現象の一部は抵抗変化型不揮発メモリー(ReRAM)などへの産業応用も検討されはじめています。このモット転移は、ナノ空間でも起こり、ミクロ相分離した多ドメイン状態が巨大かつ高速の伝導応答の本質を担っています。本プログラムでは、高速のモット転移場としてのナノ構造体の設計を通して、次の重点項目を研究し、未来技術としてのモットロニクスの完全な基礎付けを行います。
- ・薄膜/超格子における強相関電子の多自由度が作る電気磁気多重秩序、スピン軌道秩序の完全構造解析。
- ・強相関電子系接合における光誘起モット転移と、これを利用した可視光照射多重キャリヤー発生による高効率光発電原理。
- ・強相関電子系に特有な相分離型競合電子相のスイッチを実現する電子相ドメイン構造観察と巨大応答設計。
- ・電場誘起金属・絶縁体(モット)転移とその動的特性の理論的解明。
- ・電界効果超伝導の実現と高Tc化および両極性動作。
強相関創発物性サブテーマリーダー:十倉好紀
- 強相関電子の多自由度(電荷、スピン、軌道)による創発性によって、電気-磁気-熱-光の作用と応答の相関を巨大化するための物質学理を構築します。電気-磁気の相関は未来のスピントロニクスの基幹機能です。また、電子系の高いエントロピーを付与した熱電効果や多重光キャリヤー発生光電変換を可能にする光誘起モット転移は、未来の創エネルギー機能に大きな飛躍をもたらす機能原理となります。以下の項目を重点的に実施します。
- ・固体の電気分極―磁気構造の相互量子制御および動的制御。
- ・強相関電子の多自由度による電子(電荷―軌道―スピン)系の高エントロピー性に基づく新原理高効率熱電変換と磁気熱容量(磁気冷却)効果の実現。
- ・電場・光による超高速電子相転移ダイナミクスの解明。
- ・先端光電子分光による新規超伝導体およびトポロジカル絶縁体表面状態の電子構造解明。
エネルギー非散逸性電子技術原理サブテーマリーダー:永長直人
- 散逸を伴わないトポロジカルカレント(スピン流、分極流)に基づく量子状態操作の原理を構築します。トポロジカルカレント(量子波動としての電子の干渉現象によって流れるカレント)とその量子伝導について、異常ホール効果やスピンホール効果の解明など基礎学理の解明が急速に進行しています。さらにトポロジカル絶縁体、量子スピンホール系の発見により、トポロジカルカレントが量子回路として利用できる可能性が現実味を帯びてきました。電子相関が加わると、擾乱に強い量子ビット、巨大な電磁交差相関などの驚異的機能の発現も期待されます。この以下の項目を重点実施します。
- ・スピン流設計原理の提案と電磁相関・磁熱相関未踏機能の発見。
- ・量子多重秩序の量子ビーム(X線、中性子)による完全解析。
- ・トポロジカル秩序をもつ強相関物質(トポロジカル絶縁体)の界面・表面および端状態の理論的解明とそこでの非散逸性電流、および超伝導物性開拓と電場・磁場制御の学理構築・実証。