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研究内容

公募研究

公募研究 02(平成22年度採択):⇒JSPS 最先端次世代開発研究プログラムに採択された理由により2011年3月末で終了
縮退イッテルビウム原子集団を用いたクラスター量子計算の実現

研究代表者/上妻幹男 東京工業大学大学院理工学研究科・准教授

本研究は、フェルミ縮退をした171Yb原子集団にCavity QEDの技術を適用することにより、クラスター型量子計算を実現することを目的としている。2001年、RaussendorfとBriegelによって、クラスター量子計算が提案された[1]。ユニタリーなゲートを組み合わせる通常の量子計算とは異なり、複数のqubit間にクラスター状態を形成した後、個々のqubitを射影測定することで計算を進めていくのがこの手法の特徴である。中性原子気体のように、106個といった巨大な数のqubitを比較的容易に準備し、かつ光格子によってそれらを規則正しく配置できる系の場合、その有効性は計り知れないものとなる。実際2003年Blochらは、Rb凝縮体に対してMott転移をおこし、原子を光格子のサイト内に1個ずつトラップした後、電子スピンに依存したポテンシャル制御を施し、Ising型の相互作用を誘起することで、クラスター状態を生成することに成功した[2]。この実験により、大規模な量子計算を実現できる可能性が一挙に高まったが、残念なことに電子スピンを利用しているため、系のコヒーレンス時間はわずか1ms程度にとどまった。またスピンを1個ずつ射影測定することもできなかった。

本公募研究において我々は、以下の5つの方針にもとづき、クラスター量子計算を実現することを目指していく。

1. 電子スピンの2000倍のコヒーレンス時間をもつ核スピンをqubitとして起用する。具体的には、171Ybの基底状態がもつ1/2核スピンを対象とする。

2. QubitとなるYb原子集団を、対物レンズ表面、約1μmの平面内にアレイ状に配列する。ソリッドイマージョン効果を利用した高分解能蛍光顕微技術により、量子ビットの配列状況の精査を可能にする。

3. 通常は原子時計にしか用いられない禁制遷移を利用した「核スピン依存光トラップ」という新しい機構によって、演算に必要なクラスター状態を生成する。ポテンシャルの実時間操作は、空間位相変調器を用いて実現する。

4. クラスター計算成功の鍵は、高い量子効率をもって個々のスピンを射影測定することができるか否かにかかっている。微小光共振器を用いたCavity QED技術を駆使して、高速、かつ高効率の射影測定を実現する。具体的には、光格子中の特定の原子を3P2準安定状態に励起し、3D3準位との間の許容遷移を利用してCavity QEDを行うことで、放出レートが増強された蛍光をμsのオーダーで観察し、射影測定を実現する。

我々は、これまでの研究を通して、単一Yb原子がもつ核スピンの量子状態を測定し、さらに自在に制御する技術を構築してきた。具体的には、バイアス磁場を用いた単一核スピンの射影測定[3]、単一光子をアンシラとして用いた測定強度の制御 [4]、微小光共振器内における数秒に及ぶ単一Yb原子トラップ、0.98以上のFidelityをもつ量子トモグラフィー[5]、Two-mode cavity QEDによる単一核スピン射影測定[6]などである。これらの技術をもとに、2次元光格子中のYb原子を用いたクラスター量子計算の実現を目指していく。

[1] R. Raussendorf and H. J. Briegel, Phys. Rev. Lett. 86, 5188 (2001).
[2] O. Mandel et al., Nature (London) 425, 937 (2003).
[3] M. Takeuchi et al., Phys. Rev. A 81, 062308 (2010).
[4] N. Takei et al., Phys. Rev. A 81, 042331 (2010).
[5] A. Noguchi et al., arXiv: 1005.3584 (2010).
[6] Y. Eto et al., arXiv: 1012.1724 (2010).

詳細は「論文/出版物」ページをご覧ください。