地殻破壊に伴うマイクロ波放射の観測と地震探知への応用
東京大学大学院博士課程在籍時
東京大学地震研究所、宇宙科学研究本部と共同研究
東京大学地震研究所、宇宙科学研究本部と共同研究
地震の発生直前や瞬間に、異常な電磁気現象が起きることが報告されています。これらの発生メカニズムは明らかにされておらず、岩石を人為的に破壊させた際の電磁場を観測することで、解明を目指す研究が行われています。これまで、その研究対象はDCからMHzの電磁波帯域がほとんどであり、GHzオーダーのマイクロ波帯に関する実施例はほとんどありません。
そこで本研究では、岩石破壊に伴うマイクロ波放射を観測すると共に、観測にヘテロダイン受信系を用いてナノ秒オーダーの高速現象を捉えることを目的としています。円柱形の岩石試料に対して、上下方向に最大10トンの荷重をゆっくり与え、岩石が崩壊した瞬間のマイクロ波放射信号を計測します。その結果、次のような特徴が見られました。
- 崩壊から3ms以上の間、複数のパルス信号を持つマイクロ波が観測された。パルス幅は数ナノ秒であり、その波形はパルスの出現時刻、間隔、振幅も不規則なものであった。
- 従来電磁気現象が顕著だった強圧電性の岩石(珪岩など)のみならず、弱圧電性岩石の破壊時でも観測された。
- 珪岩の場合では崩壊に伴う荷重の解放中からマイクロ波信号が出現したのに対して、その他の弱圧電性岩石では荷重が完全に下降した後から信号が出現し始めた。
今回の実験で、岩石破壊に伴うマイクロ波放射を世界で初めて観測することに成功し、ナノ秒オーダーの高速電磁気現象を捉えることができました。この結果を基に、物体の破壊に伴う電磁波放射のメカニズムを検討していく方針です。
さらに、この研究で得られた成果は、地震の探知に応用できると考えています。地震によって地殻が破壊されることで、同様にマイクロ波が放射されると期待できます。このとき、マイクロ波の伝搬は地震波よりもはるかに速いことから、地震に伴う異常なマイクロ波信号をキャッチし、警報を出すことで、早い段階から被害を低減することもできます。
これだけではなく、マイクロ波は電離層での透過率が高いことから、人工衛星から地上へ広視野の受信アンテナを向けて、広範囲の地震探知を行う警戒システムの実現にも繋がる可能性もあります。


図2.マイクロ波ヘテロダイン受信システムの構成。


図3.観測されたマイクロ波信号の例。左列が強圧電性を持つ珪岩、右列が圧電性がほとんどない斑レイ岩。上の段から、荷重の時間変化、及び22GHz、2GHz、0.3GHz帯域の観測信号。続いて、長時間の荷重変化、変位変化、0.3k~300kHz帯の電界変化。
参考文献
牧 謙一郎,高野 忠,相馬央令子,石井健太郎,吉田真吾,中谷正生, "岩石圧縮破壊に伴うマイクロ波放射の観測、”地震,58(4), 375-384 (2006)受賞
平成16年電気学会全国大会優秀論文発表賞 (2005)牧 謙一郎、高野 忠、“衝突破壊に伴う放電によるマイクロ波放射解析”