超高速衝突に伴うマイクロ波放射の観測
東京大学大学院博士課程在籍時
JAXA 宇宙科学研究本部と共同研究
JAXA 宇宙科学研究本部と共同研究
人工衛星軌道上を周回する宇宙デブリが、運用中の人工衛星に衝突する相対速度は、秒速数kmの“超高速”に相当する(拳銃から発射される弾丸のおよそ10倍)。物体同士が超高速で衝突する際、物体の瞬間的な破壊だけでなく、発光、発熱、プラズマ発生、衝撃波など様々な現象を伴い、これらの究明を目的とした研究が多くなされてきた。
近年、文部省 宇宙科学研究所(現JAXA)で行われた加速器による地上実験において、超高速衝突の瞬間にマイクロ波帯(GHz)の電磁波放射が世界で初めて観測された。その信号は、単なる高熱源体からの輻射とは異なる特徴を示し、その放射メカニズムは明らかにされていない。
そこで本研究では、超高速衝突に伴うマイクロ波放射現象のメカニズムを究明することを目的とする。まず、衝突実験を繰り返し実施し、様々な条件に対する放射特性を分析する。次に、得られた実験結果を基に、放射メカニズムの推測を行う。
実験では、質量1gのポリカーボネート製弾丸を電磁飛翔体加速装置(レールガン)で最大秒速7kmまで加速させ、様々な材質、形状の標的に衝突させた。衝突点にマイクロ波アンテナを向けてヘテロダイン受信系を用いて信号を検出し、衝突瞬間の波形を記録した。その結果、次に示す特徴が明らかになった。
- 観測されたマイクロ波の信号に共通する特徴は、断続的なパルス信号で、パルス幅は1ns~数ns程度、パルスの時間間隔や強度は不規則であり、その出現期間は衝突後少なくとも1ms継続した。
- 衝突速度が高く、標的の体積が大きいほどマイクロ波放射強度が高い。
- 絶縁性の標的と比較して、導電性標的への衝突時の方が明らかに放射強度が高い。
- 異なるマイクロ波帯域(20GHz帯、2GHz帯、0.3GHz帯)で同時に観測したところ、ほぼ全ての観測パルス信号は、全ての周波数帯で同期していた。
- 飛翔体が標的に接触してから、およそ10μs遅れて最初のパルス信号が現れ始めた。
これらの結果から、超高速衝突によるマイクロ波放射は、単なる黒体放射ではなく、断続的に発生するコヒーレントな放射を引き起こす現象によるものと推測できる。加えて、後に行った岩石圧縮破壊時のマイクロ波放射観測結果も踏まえて、マイクロ波は物質の破壊により生成された微笑亀裂での電荷生成から生じる瞬時電流が原因と仮定した。
宇宙科学研究本部が所有するレールガンの発射の様子がYou tubeで公開されているようです。




図3.超高速衝突、及び観測実験系の構成(左)、及びマイクロ波の検出に利用したヘテロダイン受信系(右)。


図4.22GHz帯受信システムにおいて観測された衝突直後のマイクロ波信号波形。標的がアルミニウムの場合(左)、及びセラミックス(アルミナ)の場合(右)。


図5.衝突速度に対するマイクロ波放射エネルギーの関係(左)、及び様々な材質の標的への衝突における放射エネルギーの違い。
参考文献
- K. Maki, E. Soma, T. Takano, A. Fujiwara, and A. Yamori, "Dependence of Microwave Emissions from Hypervelocity Impacts on the Target Material," J. Appl. Phys., 97, 104911 (2005)
- K. Maki, T. Takano, A. Fujiwara and A. Yamori, "Radio-wave Emission due to Hypervelocity Impacts in Relation to Optical Observation and Projectile Speed," Advances in Space Research, 34, 1085-1089 (2004)
- 相馬 央令子, 牧 謙一郎, 高野 忠, 佐野 雅敏、 "マイクロ波によるデブリ衝突検出系の検討、" 日本航空宇宙学会論文集, 56, 105-109 (2008)
- H. Ohnishi, S. Chiba, E. Soma, K. Ishii, K. Maki, T. Takano, "Study on microwave emission mechanisms on the basis of hypervelocity impact experiments on various target plates," J. Appl. Phys., 101, 124901 (2007)
- 高野 忠,牧 謙一郎,相馬 央令子,千葉 茂生,前田 崇,藤原 顕,吉田 真吾、 "物質破壊時のマイクロ波発生現象とその物理探査への応用、" 物理探査,59(6),561-573 (2006)
- T. Takano, Y. Murotani, K. Maki, T. Toda, A. Fujiwara, S. Hasegawa, A. Yamori and H. Yano, "Microwave Emission due to Hypervelocity Impacts and its Correlation with Mechanical Destruction," J. Appl. Phys., 92, 5550-5554 (2002)
受賞
平成16年電気学会全国大会優秀論文発表賞 (2005)牧 謙一郎、高野 忠、“衝突破壊に伴う放電によるマイクロ波放射解析”