生物情報基盤構築チーム, 先端技術基盤部門, 基幹研究所, 理化学研究所
細胞内ロジスティクスのデジタル解析
細胞内画像処理!?
Contents
- 概要
- What's so special about IntraCellular Image Processing ?
- 細胞内画像の例
- 実際の細胞内ロジスティクス観察画像データとその定量解析の学術的意義
- 用語説明
- back to 細胞内ロジスティクスのデジタル解析
概要
細胞内の各物質輸送経路の統括的解明は、病態の理解に向けて非常に重要である。これは、人間で言えば、神経伝達系や循環系の様であり、その動態が生命活動に直接影響を与えるのは明らかである。残念ながら現状の細胞生物学では特定のオルガネラや個々の輸送経路に関しての詳細な研究が主であり、各輸送経路の複合的解析までには至っていない。また、観察された個々の輸送タイムラプス画像データに対しての解析・解釈は、研究者個人の主観によるところが大きい。それ故、細胞全域での複合的輸送機構(細胞内物流システム:細胞内ロジスティクス)に対して、個人の判断基準によらない定量的解析手法の研究・開発が急務であり、細胞内の様々な輸送経路の統一的な定量解析による統括的理解こそが、病態の理解を進めるための最重要課題であると言える。そのため、タイムラプス観察画像を基にした細胞内物流システムの定量化のための、画像処理技術・アルゴリズムの研究・開発は非常に重要である。
What's so special about IntraCellular Image Processing ?
通常の生物学では生命体の最小単位は細胞である。たんぱく質のみや細胞の小器官のみでは「生きている」とは言わない。つまり細胞観察画像は「生命とは何か?」に迫る重要な自然科学のデータである。生きている細胞の中身を観察するライブセルイメージングは近年急速に発達した技術である。一方、一般の信号画像処理論の歴史は古く、その技術・計算法・応用数学はコンピュータ科学の中ではComputer Graphicsや数値解析と並び高度に発展している研究分野であり、現在の自然科学・工学のほとんどの観察・観測・測定データがデジタル化される事からその重要性は増す一方である。残念ながら細胞内観察画像処理の研究分野はまだ始まったばかりな事もあり、脳のMRIや臓器のCTを対象にした生体・医用画像処理の分野と比べて、最先端の画像処理・コンピュータビジョンで用いられている高度な技術・アルゴリズムは適用・提案されていない。
これには、細胞内部を観察した画像は微小領域を超高感度で画像化するが故のノイズ比の問題がある。さらに、より困難な特徴として、オルガネラと呼ばれる細胞内小器官が臓器や骨格、筋肉といった全身スケールの器官と比べてトポロジー変化、非常に大きな形態変化、異なる種類のオルガネラ間遷移を経ながら時間変化する事が挙げられる。この様な対象を堅固かつ効率的に処理するためには、今までにない新しい画像処理・コンピュータビジョンの方法が必要でありmathematicalかつalgorithmicな挑戦である。
細胞内物流システムの観察画像を取り扱う事はけっして限定的な研究ではなく、今後の生命科学には欠かせないであろう細胞内観察画像処理のファンダメンタルな問題となる事が予測される。これは、細胞内の物質輸送が一般の細胞内のあらゆる場所で観察出来る基本的な現象だからである。また、2008年度のノーベル化学賞がライブセルイメージングでよく用いられる緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した研究者らに贈られた事からもその注目度の高さが伺える。
上記の様に細胞内物流システム観察画像の定量化は、チャレンジングな対象であり且つ将来性が期待される新しい研究分野である。
細胞内画像の例
用語説明
- ベシクル・輸送小胞:輸送小胞・ベシクルとは脂質二重膜で輸送物質が包まれた球状又は袋状の構造体である。オルガネラ(細胞小器官)同士の間や細胞膜とオルガネラ間等の脂質二重膜の間を行き来する物質輸送を担う。小胞体と呼ばれるオルガネラとは異なる。
- 輸送関連オルガネラ:エンドソーム、リソソーム、ファゴソーム、小胞体、ゴルジ体等が代表的な輸送関連のオルガネラである。
- 輸送担体:ベシクル及び輸送関連オルガネラ。
- メンブレントラフィック:輸送担体が機能する物質輸送経路の総称。「膜輸送」(脂質二重膜上のチャネルやトランスポータによって、膜を通過するイオンや低分子の移動)とは異なる。
- 細胞内物流システム:エンドサイトーシス(取り込み)、エキソサイトーシス(分泌)、オルガネラ間輸送に代表されるメンブレントラフィックの複合的メカニズム。細胞内の様々なメンブレントラフィックの統括的・大域的な複合的輸送機構。
- 細胞内物流システム観察画像:複数の顆粒状物質や輸送担体の時間変化を観察した画像。通常一回の顕微鏡観察で取得される画像は空間2次元+時間1次元の3次元画像又は、空間3次元+時間1次元の4次元画像であり、通常時間変化を含むタイムラプス画像である。ベシクルは細胞膜又は輸送関連オルガネラの脂質二重膜が輸送対象の物質を包み込む様に千切れて形成され、輸送先の細胞膜又は、輸送関連オルガネラにベシクルが融合する事で消滅する。そのため、撮影する対象や解像度によっては、メンブレントラフィックは「点群の移動」や「厚みのある膜のトポロジー変化を伴った変形」として画像化され、その観察画像は非常に多様である。
(C) 2008~ Bio-research Infrastructure Construction Team, RIKEN, Japan. All rights reserved.