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細胞内ロジスティクスのデジタル解析
平成21年度 細胞内ロジスティクス 理論研究区分公募内容
文部科学省 新学術領域研究:細胞内ロジスティクス 理論研究区分公募内容
- 細胞内画像定量化へ向けた、画像処理技術・アルゴリズムの研究
- (研究項目 A01): 細胞内ロジスティクス:病態の理解に向けた細胞内物流システムの融合研究
- 領域略称名:ロジスティクス
- 領域番号:3002
- 設定期間:平成20年度〜平成24年度
- 領域代表者:吉森 保 (大阪大学)
- 募集期間:平成21年1月20日(火)〜3月6日(金)
- 関連HP
- 新学術領域研究 細胞内ロジスティクスHP
- 細胞内ロジスティクス公募研究HP(本公募全体の説明)
- 公募要領、計画調書のダウンロードはこちらから: 文部科学省の公募HP(平成21年度科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」(公募研究)の公募書類等)
文部科学省 新学術領域研究 細胞内ロジスティクス 理論研究区分公募内容
本公募内容は細胞内ロジスティクス公募研究の「100万円/年を上限とする理論研究を9件程度予定」に該当します。2年間の研究を公募し、1年間の研究は公募の対象としていません。また、研究分担者は置くことは出来ません。
日本の画像処理・コンピュータビジョンの歴史は飯島による線形スケールスペースの発見、旧電子技術総合研究所における一連の光学文字認識(OCR)技術や大津の二値化法等、欧米に先駆けて今現在でも世界中で使われているアルゴリズム・理論を提案してきた非常に輝かしいものです。それゆえ現在日本中に優秀な研究者・研究グループが多数存在しており、細胞内画像処理の研究分野へ、純粋な画像処理・コンピュータビジョンが専門又は、生体・医用画像処理で実績のある研究者・研究グループの新規参入を歓迎します。 細胞生物学との本格的融合研究の先駆けとなり、新学術領域としての重要な意義を持つ事が期待出来る事から、本公募では画像データによる細胞内物流システムの定量化に有効な新しいアルゴリズム、フレームワーク及びインターフェースに関する研究課題を幅広く求めます。具体的なターゲットは以下に列挙しますが、下記項目以外も幅広く受け付けます。
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実際の細胞内ロジスティクス観察画像データとその定量解析の学術的意義も定量解析法提案の参考としてください。また、細胞内物流システムの生物学的概要はレビュー「メンブレントラフィックの奔流:分子から細胞,そして個体へ, 大野博司・吉森 保 編, 共立出版 蛋白質 核酸 酸素12月号増刊, Vol.53, No.16, 2008」が参考になります。
本公募のターゲット例:細胞内物流システムの定量解析に有効な
- 特徴量
細胞内物流システム観察画像に特有な特徴量(shape descriptor)の定義及び計算法の研究。特に、輸送担体のトポロジー変化に敏感な(又は鈍感な)特徴量。 - 領域抽出
細胞内物流システム観察画像に対して、観察対象の領域のみを自動抽出する計算法の研究。特に、観察対象に対してテンポラルコヒーレンスが高い方法。 - パターン認識
細胞内物流システム観察画像に対して、観察対象のパターンを自動認識する計算法の研究。特に、ベシクルの形成・融合・分裂・消滅・衝突過程等の時空間的トポロジー変化を認識する方法。 - オブジェクト追跡
細胞内物流システム観察画像に対して、観察対象のベシクル、オルガネラや物質を時空間で自動追跡する計算法の研究。特に、顆粒状物質やベシクルの追跡(ベシクルトラッキング)をトポロジー変化に対して堅固に行う方法。 - 相関・マッチング
二つ以上の細胞内物流システム観察画像に対して、細胞生物学的に意義がある距離計量の定義及び計算法の研究。特に、静的な画像間の相関ではなく、ベシクルの軌跡群同士の距離等タイムラプス観察画像間の相関計算方法。 - パラメータ推定・逆問題
細胞内物流システム観察画像を基にしたアルゴリズムのパラメータ推定及び逆問題に関する研究全般。複数の観察画像を基にしたマルチスケール処理の適応スケールや多重解像度解析の適応解像度の自動推定、しきい値推定法や、適応weight推定等の学習問題・超解像度問題の計算法だけでなく、細胞内物流システムに関する数理モデルの物理係数推定に関わる逆問題の提案。 - 統計・確率計算によるアプローチ
細胞内物流システム観察画像におけるノイズ、ボケ、退色等の問題を、確率モデル及び統計計算により解決しようとする研究。特に、時間と伴って退色する観察画像に対して、退色過程の確率モデルを仮定し、定量化しやすい画像を取得する方法。 - 幾何形状処理
細胞内物流システム観察画像を基にしたメンブレントラフィックの幾何形状処理全般に関する研究。特に、輸送担体のトポロジー変化を記述するための時空間陰関数(Implicit Function)を用いた多様体再構成の方法。 - 既存アルゴリズムのベンチマーク・性能評価
細胞内物流システム観察画像に対して、一般の画像処理やコンピュータビジョンでよく使われている既存アルゴリズム群の性能評価を行う研究。特に、細胞内物流システム観察画像解析で重要視されている、パターン認識、オブジェクト追跡又は相関・マッチングに関しての計算法のベンチマークを行い、アルゴリズムのクラスと細胞内物流システム観察画像のクラス間の関係を明らかにする事を目指す方法。 - 画像処理エキスパートシステム
細胞内物流システム観察画像に対し、定量化に必要な画像処理法を目的に応じて自動生成する研究。画像処理法はフィルタ等の低レベル処理から画像認識などの高レベル処理まで、定量化に有用であればレベルは問わない。 - 解析ソフトウェア・システム開発
細胞内物流システム観察画像からの計測特徴量、注目点追跡結果などを統計データやヒストグラム、相関図としてまとめ、ファイルとして出力するソフトウェアの研究・開発。また、前処理や計測・解析処理まで一気に行える画像処理システムの開発も広く求める。 - 大容量画像データを効率的に扱えるデータベース・ソフトウェア・システム
大量な細胞内物流システム観察画像群を効率的に扱えるデータベース・ソフトウェア・システムの研究。特に、画像そのものだけでなく、抽出した特徴量や追跡した軌跡とその速度等の画像に付随する情報を含んだデータを効率的に扱えるシステム開発。 - インタラクティブ画像処理システム
細胞内物流システム観察画像解析に有用なヒューマンインターフェースに関する研究。特に、時間変化を伴う、タイムラプス画像の時空間に関わる領域・位置・パラメータのインタラクティブな操作と輸送担体領域抽出・認識・追跡アルゴリズムの適用を直感的に行う方法。 - 可視化
細胞内物流システム観察画像を基に定量化したデータの可視化方法の研究。特に、ベシクル移動ベクトル場のトポロジー変化を保存する簡略可視化方法、高次元のメンブレントラフィック特徴量の効果的な可視化方法と、大量な細胞内物流システム観察画像群の相関関係の可視化方法。 - 物理モデル・数理論理
細胞内物流システム観察画像を基にした、ベシクル動態の連続体力学又は量子力学モデルの研究。特に、生化学反応と力学モデルとの連成支配方程式の構成とそのシミュレーション方法。
備考
本公募に採択された研究課題には、細胞内物流システムの観察画像を細胞内ロジスティクスの総括班よりテストデータとして提供します。用語説明
- ベシクル・輸送小胞:輸送小胞・ベシクルとは脂質二重膜で輸送物質が包まれた球状又は袋状の構造体である。オルガネラ(細胞小器官)同士の間や細胞膜とオルガネラ間等の脂質二重膜の間を行き来する物質輸送を担う。小胞体と呼ばれるオルガネラとは異なる。
- 輸送関連オルガネラ:エンドソーム、リソソーム、ファゴソーム、小胞体、ゴルジ体等が代表的な輸送関連のオルガネラである。
- 輸送担体:ベシクル及び輸送関連オルガネラ。
- メンブレントラフィック:輸送担体が機能する物質輸送経路の総称。「膜輸送」(脂質二重膜上のチャネルやトランスポータによって、膜を通過するイオンや低分子の移動)とは異なる。
- 細胞内物流システム:エンドサイトーシス(取り込み)、エキソサイトーシス(分泌)、オルガネラ間輸送に代表されるメンブレントラフィックの複合的メカニズム。細胞内の様々なメンブレントラフィックの統括的・大域的な複合的輸送機構。
- 細胞内物流システム観察画像:複数の顆粒状物質や輸送担体の時間変化を観察した画像。通常一回の顕微鏡観察で取得される画像は空間2次元+時間1次元の3次元画像又は、空間3次元+時間1次元の4次元画像であり、通常時間変化を含むタイムラプス画像である。ベシクルは細胞膜又は輸送関連オルガネラの脂質二重膜が輸送対象の物質を包み込む様に千切れて形成され、輸送先の細胞膜又は、輸送関連オルガネラにベシクルが融合する事で消滅する。そのため、撮影する対象や解像度によっては、メンブレントラフィックは「点群の移動」や「厚みのある膜のトポロジー変化を伴った変形」として画像化され、その観察画像は非常に多様である。
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