(2) コンデンシンとコヒーシンによる染色体構築の制御
近年の研究により、コンデンシンとコヒーシンの拮抗的作用が染色体分離において中心的な役割をはたしている、というコンセプトが確立しました。しかし、この2つの複合体のダイナミックな動きが生体内でどのように制御されているかについては、まだまだ理解が進んでいません。私たちの研究室では、培養細胞およびツメガエル卵抽出液の実験系を用いて、以下の設問を中心に研究を進めています。
(A)2つのコンデンシン複合体の時空間制御。高等真核細胞には2つのコンデンシン複合体(コンデンシンIとコンデンシンII)が存在し、それぞれ細胞周期の異なったステージで染色体に結合します。また凝縮の完了した中期染色体上では、2つの複合体は染色体軸上に沿って交互に分布し縞模様を形成しているように見えます。こうしたコンデンシンの時空間制御とその生物学的意義を探ることにより、染色体構築の本質に迫りたいと考えています。
(B)DNA複製と染色体凝縮の関連。DNA複製と染色体凝縮は、細胞周期の異なった時期に起こるため、これまで全く独立な事象として研究されてきました。私たちは、この2つの事象が構造的・機能的に関連しているのではないか、そしてコンデンシンIIが両事象をつなぐキー・ファクターではないか、という仮説を立て、これを検証していくことにより、細胞周期を通じた染色体ダイナミクスの全体像を理解しようと試みています。
(C)コンデンシンとコヒーシンの機能的クロストーク。コンデンシンとコヒーシンは、構造的に類似していますが、生化学的には独立した複合体であり、細胞周期の過程でそれぞれ異なる因子によって制御されています。しかし一方で、染色体の形態は凝縮と接着の精妙なバランスによって決まっていることが推測されています。私たちは、コンデンシンとコヒーシンを実験的に操作することにより、こうした染色体の形づくりの問題にアプローチしています。さらに最近では、減数分裂期の染色体分離におけるコンデンシンとコヒーシンの役割についてもマウスをモデル系として研究を開始しています。