研究内容

私たちのグループは、計算機や数理的手法を用いて、生命現象に取り組んでいます。特に多量の情報を統合して高次生命現象を理解する場合や、時空間中にパターンが展開する形態形成現象を理解するうえで、数理的手法は有効だと考えています。

過去の研究内容

基底細胞上皮腫(BCC)の成長の数理モデル

基底細胞上皮腫(BCC)とはヒトの表皮の一番内側にある幹細胞,基底細胞が腫瘍化したものである。 この腫瘍の表面付近の断面の顕微鏡写真をとると、腫瘍組織が等間隔で並ぶ島状のパターンが観察される (つまり3次元ではでこぼこした表面をもつこととなる)。 腫瘍組織には毛細血管が入り込めないので、腫瘍組織は毛細血管からの拡散によって栄養を得て増殖する、 と仮定し、数理モデルによるパターンの再現を試みた。

表皮、真皮に垂直な2次元空間を考える。 腫瘍細胞が栄養を吸収しながら増殖し領域を拡げた結果、凹凸パターンが形成されると考え、 腫瘍密度と栄養濃度の拡散反応方程式モデルを用いた。

計算機シミュレーションをもちいた解析の結果、 初期栄養濃度(血管からの栄養供給量)がパターンにもっとも大きく影響することが分かった。 具体的には、初期栄養濃度が高いときにパターンは一様(腫瘍表面に凹凸の無い状態)となり、 低いと凹凸パターンが生じる(このような凹凸パターンを横に切った断面は島状になる)。

実際の人体でも、肝臓のような栄養条件の良いところで生じるガンは丸く一様に成長することが知られており、 皮膚のように栄養条件が悪いところでは凹凸パターンがみられることがある。 このことは model の予測とよく一致していると思われる。

また、「枝の幅の CV(coefficient of variation)」と「空間に占める枝の割合」のふたつの統計量を用いて パターンを数値化することで、写真データからのパラメータ推定法についても考察を行った。