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過去のセミナー
有殻アメーバの被殻構築から探る細胞機能の可能性
日時: 2017年1月10日(火)13:30〜
講演者: 野村真未 (筑波大学下田臨海実験センター)
場所: 理化学研究所 生物科学研究棟 S406
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要 旨:
細胞が細胞としてあり続けるため,また自己増殖するためには,エネルギー生産や細胞分裂は欠かすことができない機能であり,これらの機能はすべての細胞が持ち合わせている。一方,主に単一の細胞のみで生活する微細藻や原生生物に目を移してみると,各々の細胞は実に多様で,特殊な機能を有していることが分かる。例えば,珪藻の細かくて精巧なガラスの被殻形成や,ハプト藻のハプトネマの急速なコイリング,渦鞭毛藻のベールを使った捕食,そして,有殻アメーバの細胞外での被殻形成など,これまでの細胞研究から得られた知見では説明できない現象が多数存在する。本発表では,有殻アメーバの被殻形成という現象に焦点をあてた。有殻アメーバは,仮足以外の細胞質を被殻の外に出すことはなく,被殻を細胞分裂に先立って新たに構築し,新規殻へ娘細胞を送り込むという分裂様式を持っている。驚くべきことに,新規殻は細胞外の鋳型のない空間に構築される。
Paulinella chromatophoraは,安定した培養系の確立された数少ない有殻アメーバの一種である。我々は,
P. chromatophoraを材料として,有殻アメーバによる被殻構築という現象が,細胞のどのような構造や機能により引き起こされるのかを理解することで,細胞が持つ機能の可能性を探ってきた。
光学顕微鏡によるタイムラプスビデオ観察から,細胞外に分泌された鱗片を太い仮足を使って開口部側から一枚ずつ,らせん状に積み上げることで卵型の被殻が構築されることが分かった。また,被殻構築の各ステージにおける透過型電子顕微鏡観察から,太い仮足の先端で次に積み上げられると予想される鱗片をつかみ,鱗片どうしを接着するセメント様物質を小胞から分泌することで、被殻が開口部側から順に固定されてゆくことが予想された。最終的には,開口部側に小さい鱗片,中間層にかけて大きな鱗片,開口部と反対側には斑点模様の装飾を付けた小さい鱗片をそれぞれ配置した,卵型の被殻が完成する。このように,たった一つの細胞が,見事にデザインされた被殻を細胞外に構築する様子は,驚異的であり,細胞の持つ機能のポテンシャルを示しているといえる。