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望月理論生物学研究室では、研究に関するセミナーやイベントを積極的に主催、または参加する事で、広く理論生物学の面白さや奥深さを皆様に知っていただく機会を作ろうと考えています。ぜひお気軽にご参加ください。

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単面葉形成の仕組みに残されたブラックボックス

 
日時: 2015年2月26日(木)13:30〜
講演者: 塚谷 裕一(東京大学)
場所: 理化学研究所 生物科学研究棟 S406
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要 旨: 単面葉は、葉の本体である葉身に向軸面(いわゆる表側)のアイデンティティーをもたない、背軸面(いわゆる裏側)のみからなる特異な葉である。モデル植物の解析から、葉が平面生長するためには、それ以前に背腹軸の確立がなされていることが必要と理解されている。実際、ネギのように、単面葉をもつ種類の葉は、モデル植物で背腹軸の確立ができなくなった変異体の葉と同様に、棒状を呈するものが多い。しかし単面葉の中には、アヤメ属などで見られるように平面成長のできるものもある。ただしその平面成長の方向は、通常の背腹軸に基づく葉の面とは90度向きが異なっている。私たちの先行研究から、この平面成長は、葉の中肋の厚さを制御するDL遺伝子のはたらきに、その少なくとも一部を依存していることが判明している。すなわち単面葉の平面成長は、実は厚さ方向への成長であると理解できる。
 しかしながらこの単面葉の平面成長制御には、まだまだ多くのブラックボックスがある。その一つは、背腹軸をもたない単面葉において、いったい何が厚さの方向を与えているのか、という問題である。またin situハイブリダイゼーション解析からは、DL mRNAが葉身の中肋で、平面成長方向に平行に発現することが確認される。しかしそのDL発現領域でいったい何が起きているのか、たとえばその領域では均一に細胞増殖が促進されるのか、あるいは古典形態学が示唆してきたように本来の向軸側に向かって方向性をもった細胞増殖が起きるのかも、まだ詳細には解析されていない。本セミナーでは、こうした問題についての現時点での解析状況と課題を紹介する。今後の打開点について参加者の皆様からのご助言を仰ぎたい。

文献:Yamaguchi T, Yano S, Tsukaya H. (2010) Genetic framework forJuncus prismatocarpus. Plant Cell 22: 2141-2155.