中村 正明 氏(東京理科大理学部)
「量子スピン鎖におけるValence-Bond-Solid状態を特徴づける秩序変数」

 量子スピン系におけるHaldaneギャップに関する諸問題は、高温超伝導や量子ホール効果などと並び、この20年間に、固体物理において最も精力的に研究されたテーマの一つである。Haldaneギャップ状態とは、整数スピンの一次元Heisenberg模型にのみ現れるギャップの開いた基底状態であり、Valence-Bond-Solid (VBS)描象 ---大きさ$S$のスピンが$2S$個の$S=1/2$の自由度に分解され、隣接するスピン間でsinglet bondを組むという考え方--- がその理解への重要な鍵となる。
 我々は、このVBS状態を特徴づける量として、従来のストリング秩序変数に比べ、はるかに合理的かつ実用的な、新しい秩序変数$z_L$を提案する。これは、長さ$L$ のスピン鎖でスピン波励起を生成する「ひねり演算子」の基底状態の期待値、$z_L=\langle\Psi_0|\exp[(2\pi{\rm i}/L)\sum_{j=1}^L jS_j^z]|\Psi_0\rangle$として与えられるものである。これが「合理的」である理由は、主に次の3点である。(1)隠れた反強磁性秩序状態という複雑な概念を経由せずに直接VBS状態を検出でき、物理的描象が捉えやすくなる。(2)string秩序変数のような2点相関関数ではなく、一つのスカラー量で与えられるため、計算と解析が非常に容易になる。(3)VBSの状態の変化に応じて秩序変数の符号が変わるため、$z_L=0$ の点を見ることで、相転移点の検出に用いることができる。
 さらに、この秩序変数と量子モンテカルロ法との組合せにより、ボンド交替スピン鎖やスピン梯子系などの解析を行う。同様の秩序変数を電子系に応用した場合についても議論する。