久保 勝規 氏(日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター)
「f電子系における多極子秩序」

 近年、軌道自由度に起因する物性が盛んに研究されている。特に軌道縮退が自発的に解ける軌道秩序転移は、d電子系、f電子系で精力的に調べられてきた。最近ではf電子系において、通常の軌道秩序や磁気秩序とは異なる秩序状態の可能性が議論されている。それは八極子の秩序である。f電子系では強いスピン-軌道相互作用のために、電子状態をスピン状態と軌道状態に分けて記述するのは困難であり、良い量子数となる全角運動量を用いることになる。その全角運動量一定の状態を系統的に分類するには、多極子の自由度を用いる のが便利である。双極子(二極子)の秩序は通常の磁気秩序であり、電荷分布の異方性を記述する四極子の秩序は通常の軌道秩序である。さらに高次の多極子である八極子は、磁気モーメント分布の異方性を記述するものである。この八極子の秩序の可能性が、Ce_xLa_{1-x}B_6やNpO_2に対して議論されている。本講演では、これらの系の現象論的な理解と [1-3]、最近我々が行った多極子秩序の微視的な導出の試み [4] を紹介する。

[1] J. A. Paixao et al., Phys. Rev. Lett. 89, 187202 (2002).
[2] K. Kubo and Y. Kuramoto, J. Phys. Soc. Jpn. 72, 1859 (2003); 73, 216 (2004).
[3] K. Kubo and T. Hotta, to be published in J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) (cond-mat/0509788).
[4] K. Kubo and T. Hotta, Phys. Rev. B 71, 140404(R) (2005); 72, 144401 (2005).