石原 純夫 氏(東北大学大学院理学研究科)
「高温超伝導体における電子格子相互作用と電子相関」
銅酸化物超伝導体はその発見以来、電子間の強い相互作用について注目され多くの研究がなされてきた。特に正常相における種々の物理量の異常な振る舞いや高温超伝導の発現機構に関しては、反強磁性モット絶縁相が超伝導相の近傍に存在する事から、磁気的な相互作用との関連に興味が持たれ多くの成果が挙げられている。一方強い電子―格子相互作用によるポーラロン効果についても発見以来その重要性が指摘されてきたが、強い電子間相互作用と電子−格子相互作用の両者を適切に取り扱った理論研究は多いとは言えない。最近複数の超伝導体に対してなされた角度分解光電子分光において、電子のバンド分散の50-80meV近傍にキンク構造が見出された[1]。キンク構造は常伝導状態でも観測されることから、電子とフォノンとの結合によるものであるとの解釈がなされている。これは以前から中性子散乱実験により指摘されている、酸素の面内のハーフ・ブリージング・モードにおける(0,0)-($\pi$,0)方向の異常なソフト化と対応している[2]。
本研究では強相関電子系である高温超伝導体において電子格子相互作用の役割について調べた[3,4]。電子−格子相互作用として、銅−酸素結合距離を変える酸素の振動によりエネルギー準位を変える対角型相互作用と、サイト間遷移強度を変える非対角型相互作用を考慮した。tJ模型による計算により、ホール・ドープ型銅酸化物では非対角型相互作用がd波超伝導を引き起こす相互作用となることが示唆された。この相互作用を用いてエリアシュベルグ方程式により一電子励起スペクトル、トンネル・スペクトル、光学電気伝導度における散乱率やそのバーテックス補正の効果、またフォノン分散について調べた。
[1] A. Lanzara, et al. Nature 412, 510 (2001).
[2] R. J. McQueeney, et al. Phys. Rev. Lett. 82, 628 (1999).
[3] Z. -X. Shen, A. Lanzara, S. Ishihara, and N. Nagaosa, Phil. Mag. 82, 1349 (2002).
[4] S. Ishihara, and N. Nagaosa, cond-mat/0311200.