有田 亮太郎 氏(東京大学大学院理学系研究科)
「非磁性元素からの強磁性」

 アルカリ金属クラスターを吸蔵したゼオライトにおける強磁性は、実験的には約10年前に観測されながら、その発現機構が未だに明らかでない。これは、ユニットセル中の原子数が膨大である為に、信頼できる第一原理バンド計算が存在しなかったことによる。 今回、我々は、LTAと呼ばれる結晶構造をもつゼオライトにカリウムのクラスターを吸蔵した系の第一原理計算を行い、この系が驚く ほど単純なtight-binding模型にmapできることを見出した。さらに、Hubbard UやHund coupling J等の大きさを評価することにより、 この系の磁気的性質などが簡単な縮退Hubbard模型を用いて定量的に説明し得ることを示した。この知見が新しいゼオライト化合物 の物質設計に対する重要な指針になり得ることを議論する。
 より直接的な新奇強磁性体の物質設計として、統計力学の分野で知られている平坦バンド強磁性の概念を有機高分子で実現 させる試みをご紹介したい。我々は、5員環高分子がいくつかの理由によって平坦バンド強磁性実現の有力な候補になることを 見出し、第一原理計算とHubbard模型を用いたモデル計算によって、数ある5員環高分子の中で、ポリアミノトリアゾールが 実際に強磁性的基底状態を持つ可能性があることを示した。