水とソフト界面

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前田 瑞夫
前田バイオ工学研究室
主任研究員
宝田 徹
前田バイオ工学研究室
専任研究員
藤田 雅弘
前田バイオ工学研究室
研究員
     
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水谷 文
前田バイオ工学研究室
基礎科学特別研究員
磯田 恭佑
前田バイオ工学研究室
特別研究員
小屋松 祐一
前田バイオ工学研究室
連携促進研究員

ソフト界面とは

タンパク質、核酸、多糖類などの生体高分子や、液晶、ゲル、コロイドなどの大きな内部自由度をもつ有機物質をソフトマターと呼びます。これらがつくる界面は、外部からの刺激によって構造と性質が大きく変化します。この動的な界面を「ソフト界面」と定義します。ソフト界面は生物機能の多様性を支える源になっているばかりでなく、先進医療を支えるバイオマテリアルやバイオデバイスの性能を支配する重要な因子です。

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本研究の目的

ソフト界面では、従来の知見だけでは理解できない現象が数多く見いだされています。しかし、生体高分子などの高分子電解質、各種イオン、水分子ならびにそのクラスターが複雑に関与するため、その分子レベルの研究はほとんど進んでいません。その理由の一つは、ソフト界面を構成するマテリアルとネガ・ポジの関係にある、水の振る舞いに関する理解が十分でないことにあります。

そこで本研究は、精密に分子設計されたソフト界面の水和構造について、さまざまな計測とモデリング計算を行い、ソフト界面が示す不思議な現象・物性を解明することを目的とします。さらに、ソフト界面の特性を活かした生体適合性バイオマテリアルや分子認識デバイスの設計指針を確立することを目指します。

DNA密生層と水和構造

ソフト界面の実例として、本研究ではDNA密生層に着目します。DNAを高密度に担持したナノ粒子は、DNA主鎖に含まれるリン酸アニオンの静電反発のために、高イオン強度条件の水中でも安定に分散します。ところが、この分散液に相補鎖を添加して粒子表面で二重鎖を形成すると、ナノ粒子はただちに凝集することを見いだしました。凝集を誘起する相補的DNAは、粒子表面上のDNAと塩基数が厳密に一致するものに限られるので、あくまでも自発的な、非架橋型の粒子凝集であると言えます。さらに興味深いことに、粒子表面上の二重鎖DNAの自由末端がミスマッチの場合は凝集が全く生じません。つまり、DNA密生層と分散媒の界面でわずか一塩基のミスマッチが生じると、ナノ粒子は安定に分散状態を保ちます。これは、ナノ粒子のコロイド凝集がDNA自由末端の塩基対構造に極めて鋭敏に応答することを意味しています。

本研究では、このDNA担持ナノ粒子の特異物性を「コロイド粒子の水和構造」の観点から理解することを試みます。粒子表面に高密度に固定された二重鎖DNAについて、その末端塩基対が完全相補の場合とミスマッチの場合では、粒子表面に存在する水分子の水素結合ネットワーク構造が異なると考えられます。これを、振動分光法や和周波発生分光法、示差走査熱量分析法、分子モデリング計算などを用いて定量的に評価します。