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本 研究では近年のフェムト秒レーザーの進歩に伴い発達を遂げ,より高感度,高精度な測定が期待できるテラヘルツ時間領域分光法(Terahertz Time Domain Spectroscopy; THz-TDS)を用いて分子の分光を高精度に行うことを目的としている.テラヘルツ時間領域分光法はフェムト秒レーザーによって生じる瞬間的な電界の変化(約1ps)を光源とし,その電磁波がサンプルを通過したときの強度変化をもとに物質の吸収を見る分光法である.我々が用いている(株)先端赤外の分光装置では半 導体内にフェムト秒レーザーを照射し,その時に生じるキャリアの生成・消滅に伴う瞬間的な電場の変化をテラヘルツ光として用いている.光学遅延ステージを 動かすことにより検出光の時間遅れをずらし,ディテクターに到達するテラヘルツ電場の時間変化を検出する.大まかな装置構成は下図の通りである
得 られたテラヘルツ電界の時間波形をフーリエ変換することで周波数スペクトルを得ることが出来る.下図の二つのグラフはサンプルがある時と無いときのテラヘ ルツ時間波形を示している.サンプル(この場合水蒸気)があることによって,Free Induction Decay(FID)といわれる時間波形のエコーが見られることがわかる.これらをフーリエ変換することにより周波数スペクトルになり,FIDの振動成分 が吸収ラインとなって現れる.
この分光法は,FIDを利用することからフーリエ変換マイクロ波分光法と 似ている(ただし,キャビティーは使わない).一方で装置的には距離で掃引したインターフェログラムをフーリエ変換してスペクトルを得ることから,FT- IR分光光度計に近い部分が多い.THz-TDSを遠赤外-THz領域の他の分光法と比較すると以下のようにまとめられる.
CW laser, BWO | FT-IR | THz-TDS | |
周波数分解能 | ~MHz | ~100 MHz | 1GHz |
測定範囲 | ~10 THz | ~100 THz以上 | ~4.0 THz |
光源のパワー | mW ~ nW | mW | mW |
検出器 | Si Bolometer / InSb Detector (4K) | EO/ 光伝導アンテナ (300K) | |
NEP@3THz | 10-9 ~10-10 W・Hz1/2 | ~10-16 W・Hz1/2 | |
ダイナミックレンジ |
| ~103 | ~108 |
S/N |
| ○ | ◎ |
光源の安定性 |
| ○ | ◎ |
変調した検出 | ◎ | △ | △ |
実験の容易さ | × | ○ | ◎ |
tuFIRやBWOによる高分 解能な分光法に比べて感度や周波数精度で劣るTDSでは,イオンやラジカルの検出,遷移周波数の決定といった高分解能分光には向いていない.むしろその S/Nの良さと装置の安定性を活かしてブロードな吸収の正確な強度や形を測定することに利点を見いだせる
3.水蒸気の回転遷移の圧力広がり係数の測定
具体的な研究例としてここで挙げるのは,水蒸気の純回転 スペクトルの窒素と酸素による圧力広がり係数 γN2,γO2の測定である. この研究は情報通信研究機構電磁波計測研究センターとの共同研究で行われている.
太陽系の惑星はその惑星温度から、一般に、テラヘルツ領域に放射のピークを持つものが多く、テラヘルツ領域の分光の情報は重要である。例えば水蒸気の圧力 幅を広範囲に精度よく計測することは地球の放射収支の計算をするうえで非常に重要であるが、THz-TDSを用いることでより正確な測定が出来,精度・確 度のよい データを提供することが出来る.
ま た,地球上でのテラヘルツ応用を考える上で大気中の水蒸気による吸収は避けて通れない問題であるが,テラヘルツ帯の大気の窓における減衰率を計算する上で も水蒸気の圧力広がり係数は非常に重要なパラメーターである.実際に下図に示したのはHITRANデータベースの値と我々が測定した水蒸気の圧力広がり係 数の値を用いて計算した大気中のテラヘルツの減衰率であるが,パラメータの少しの違いによって減衰率が大きく異なっているのがわかる.