当班は原子・分子のもつ波動関数を算出する手法であるab initio分子軌道法の理論開発と現実系への応用を目的としています。波動関数Ψには原子・分子のもつ様々な性質のほぼ全てが内包されており、これを求めることで化学現象を分子レベルで理解し、現象をより深く解析するとともに、これを予測して物質開発の指針を得ることができます。

波動関数Ψを求める手法は古くから研究されてきましたが、多体の複雑系を織りなす分子系に対して、理論的手法は粗い近似に頼っており、それを実践する計算機も貧弱であったため、理論から有用な情報が得られることはごく限られた範囲にとどまっていました。しかし、理論開発による方法論の進化と計算機の劇的な発展が状況を大きく変えつつあります。ab initio分子軌道法の分野では、特に多参照摂動法がその登場以来注目を集めており、1990年代を代表する理論になりました。化学的に興味ある現実系がab initio分子軌道法の視野に入ってきたといえるでしょう。


しかし、現在のab initio分子軌道法のシステムでは「万能の理論」は存在せず、いかに多参照摂動法が優れていても、それだけで済む状況にはありません。我々は「短所を抱えつつも他より優れた長所をもつ理論」をテーマを決めて開発し、使用者が扱う系に最も適した方法を選べるよう、その選択肢を用意すべきであると考えています。