QCAS-SCF(Quasi-complete active space SCF)
CAS-SCF法は結合の解離を含むポテンシャルエネルギー曲面全域をバランスよく記述できる理論であり、またさらに高い近似となる多参照理論の出発関数として頻繁に用いられます。しかし、選択した軌道空間内でとりうるすべての配置関数を含める必要から次元数は膨大であり、軌道空間の拡張に伴ってその数はさらに急激に増大してしまいます。必然的にCAS-SCF関数を出発とする多参照理論も同じ欠点を抱えることになり、このことが多参照理論の可能性を著しく狭めています。QCAS-SCF法はこの問題に対処するべく開発された新しいMCSCF法です。
QCASでは軌道空間を互いの相互作用の少ない複数のsubsapceに分割し、subsapce内の電子数は常に一定であると仮定します。各subsapce内ではCASを張り、それらの積でCASを近似します。例えばCO分子では結合に関与する6電子6軌道がCASを張る場合、配置数は400になります。一方、QCASを適用し、6つの軌道を軸方向によって3種のグループ(subspace)に分け、各space内の電子数を2に限定したとすると、QCASの次元数は4×4×4でたった64になります。CASとQCASの次元数の差は軌道空間が大きくなるほど広がり、QCASが次元数の面で圧倒的に有利になることは明白です。
このように次元数を大幅に削減しつつも、subsapceへの分割が妥当である限り、QCASはCASとほぼ変わらぬ精度で分子の電子状態を求めることが可能であることが計算によって確かめられました。QCAS-SCF関数を参照とする多参照摂動法QCAS-QDPTも開発され、CASではとうてい不可能な大規模系を定量的に扱う準備が整っています。