MCQDPT (Multi configurational quasi-degenerate perturbation theory)
MRMPは計算コストの少ない摂動法を変分法とうまく組み合わせることで大きな成功を収めました。また参照となるCAS-SCF関数さえ用意できれば励起状態も計算することができます。しかし、複数の相互作用しえる状態が近接した準位に存在する擬縮退状態はMRMPで扱うことができません。例えばLiFにはionic
stateとcovalent stateが存在し、両者の準位が解離に伴って入れ替わる現象(avoid
crossing)が見られます。この領域におけるふたつの状態をMRMPで各個に求めようとすると、エネルギーの低い状態をより下げる方向に、エネルギーの高い状態はより上げる方向となり、破綻を生じます。そもそも参照となるCAS-SCF関数が得られない場合もあり、計算することさえ困難になってしまいます。単状態理論の限界のひとつといえるでしょう。
MCQDPTはMRMPのようにCAS-SCF関数を出発とした多参照摂動法ですが、MRMPが多参照単状態の理論であるのに対し、MCQDPTは多参照多状態の理論として開発されました。MCQDPTはstate-averageされたCAS-SCF関数を参照として、求める状態数に等しい次元のeffective
Hamiltonian行列をつくり、これを対角化することで複数の状態を同時に算出します。これは、相互作用し得る複数状態間の相互作用を考慮しながら状態を求める作業に等しく、結果は擬縮退状態を見事に記述することを可能にしました。
MRMPとMCQDPTは別々に開発されましたが、結果としてMCQDPTはMRMPを一般化し、これを包含した理論になっています。