■ 理研と准主任研究員の魅力
修士課程修了後から大学のスタッフとして11年間勤めました。薬学部の化学系の研究室に在籍しておりましたが、当初はじめた「薬を創るための有機化学」が研究を突き詰めていくにつれ薬学の化学領域を超えて、理学・工学に関する領域にまで興味を抱くようになりました。大学では、薬学、理学、工学、農学、医学などに別れて化学を分担しますが、『化学』そのものや『研究』そのものにこのような領域はありません。自分の興味に忠実に研究を展開したら、日本の大学の化学のくくりから外れてしまったというわけです。
ここ理研にはそのような分類は存在しません。自然科学のトップランナーがごちゃごちゃいるだけです。日本の大学では、学部が異なると学会なども異なってしまうせいか、意外にも異分野の研究者との交流は難しいのが現状ですが、理研では、学部・分野を超えた交流(共同研究)が普通に行われています。お酒を飲みながら、食事をしながら、会議の合間にと、全く分野の違う研究者が集まり、膝と膝をつき合わせて等身大の科学の話がすぐ始まります。
もちろん、理研には世界にも類を見ない研究施設が整っています。分野を問わずほぼ日本最高の設備が整っているのではないでしょうか。大学で一流の機器と接してきた人間でも、最初はビックリするはずです。「飲みニケーション」から生まれた思いつきもすぐに実行に移せるハードがあります。研究者としては大きな魅力の一つです。
准主任研究員制度にはもう一つの大きな魅力があります。募集要項によると「長期的視野を持って、次世代の科学技術分野を構築できる若手の自律的研究者に、独立した研究室を創成・主宰させ、将来の科学技術分野のリーダーを育成することを目的とする。」「研究分野は問わない。」とあります。准主任制度、そして私の在籍する中央研究所には、「個を認め、個を尊重し、個を育む」風潮があります。昨今の研究費、研究室運営に関しては、常に最初から「出口」が決められ、数多くの目に見える「成果」が要求される風潮があります。しかし、真に新たな研究領域を切り拓くためには、「出口」は最初から要りません。単に「空を飛んでみたい!」という純粋な気持ちから飛行機作りを始めたはずで、「一日に札幌-博多を往復するため」ではないと思います。基礎研究の「成果」は短期的なものではなく、ずっと長いスパンで評価されるべきだと考えています。准主任制度と中央研究所は、それを支援してくれる人と雰囲気があります。
最後に、准主任制度では基本的には定年制のスタッフは自分一人となります。研究費獲得に始まり、研究計画、成果発表、研究室マネージメント、など大学でいうところの教授・助教授・助手の役を一人でこなさないといけません。「個」の楽しみ、やりがい、そして苦しみがすべてつまった制度です。
「研究者として強く生きていく」第一歩として、「それを周りが暖かく支援してくれる」素晴らしい雰囲気の中で、自分の化学が、理研の科学に、そして世界の科学にどこまで貢献できるかを楽しみに毎日研究しています。 |