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分子アンサンブル制御・開発研究 Molecular Ensemble Development Research |
分子アンサンブル測定・解析研究 Molecular Ensemble Analysis Research |
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分子アンサンブル測定・解析研究 |
局所電子状態、分子間相互作用を設計・制御することによって新しい分子化合物や分子機能を開発することを目指す。大きな目標として、以下の2つのテーマを2本柱とする。 ・分子デバイス実現に向けての基礎の確立 ・触媒機能の制御と高度化(有機金属触媒、タンパク質機能制御) ![]()
![]() 超伝導体だけでも、1980年に最初の有機超伝導体が報告されて以来、既に100種類以上の分子性超伝導体が合成されている。分子性導体は、その電子構造の「明快さ」と電子物性の「多様性」を特質とし、物性物理学における標準物質の1つといえるまでに、その研究は発展している。さらに、将来の分子デバイスにおける重要な素材の一つである。分子性導体の電子物性を支配しているのは、構成分子のフロンティア分子軌道間の重なりであり、分子の間に働く非共有結合的な弱い相互作用や分子の内部自由度に由来する局所的電子状態が本質的に重要である。分子軌道間の重なりは分子の配列・配向によって定まる。逆に結晶内における分子の配列・配向そして分子間相互作用を制御することができれば、電子物性の制御が可能となる。 (1) 金属錯体系分子性導体の開発 有機配位子のπ電子系と遷移金属d電子系とが共存する遷移金属錯体を構成成分とする分子性導体は、π電子のみを含む有機伝導体に比較して、種々のユニークな物性を示す。当該チームは、これまでに「一軸性ひずみ」のみによって誘起される超伝導、局所的電子状態(二量体内のHOMO-LUMO二軌道の自由度と静電反発)に由来する新しいタイプの電荷分離相転移、二次元準三角格子における磁気的フラストレーション効果等の興味深い物性現象を明らかにしてきた。金属錯体系分子性導体に関する物質開発は未だ充分ではなく、分子性導体研究の広大なフロンティアと言える。そこで、本研究では金属ジチオレン錯体を中心に、金属錯体系分子性導体の物質および物性開発をさらに推進する。 また、従来の金属錯体系分子性導体の研究は主に単核錯体が中心で、2個以上の金属イオンを含む多核錯体が、分子性導体の構成成分として研究された例は非常に少ない。これは、多核錯体の合成法、分離・精製法が確立していないことも一因となっている。そこで、π共役系を拡張すると同時に、分子内にd電子センターを複数個有し、これらの協奏的相互作用が期待できる多核ジチオレン遷移金属錯体を用いて分子性導体を合成する試みを行う。そのためには、多核錯体の汎用的な合成法、分離・精製法を開発することが重要である。本研究では、錯体化学では従来あまり用いられていなかったHPLC等も含めて、新規の合成法および分離・精製手法を検討する。 (2) 超分子を用いた分子性導体の開発 通常分子性導体の結晶は、伝導を担う分子と電荷のバランスを担う絶縁性カウンターイオンとから構成される。分子性導体の示す物性は、その結晶構造に強く依存しているため、このカウンターイオンの存在も伝導物性に大きな影響をおよぼしている。当該チームはこの点に着目し、絶縁性のカウンターイオン部分に化学的な修飾を施すことによって超分子ネットワークを構築し、新規な物性を示す分子性導体を開発してきた。この超分子ネットワークは、分子間に働くいくつもの弱い相互作用が協奏的に発現することによって、低分子が規則的に編成され無限につながったものである。その中でも特に、電気的に中性の含ヨウ素分子を導入することによって構成される超分子ネットワークは非常に多様な形態を示し、伝導分子の一次元鎖を絶縁性超分子が取り囲む「超分子ナノワイヤ」等のユニークな伝導体を与える。本研究では超分子ナノワイヤの改良・新物質開発を中心として、分子系ならではのユニークな構造と新規な伝導物性を「超分子」の概念を利用して見いだしていく。 ↑研究テーマ 近年、無機半導体技術を補完・拡張するための新しい技術として有機TFTや分子デバイスの研究が盛んに行われているが、その際に必ず問題となるのが電極や絶縁層と有機分子との接合界面である。有機TFTの場合、回路の集積化を進めるにつれて電極と有機分子の間の接触抵抗が無視できなくなり、デバイスの性能に大きな影響を与える。また、絶縁層と有機分子との接触界面は動作電圧や速度に重要な役割を果たす。さらに、分子デバイスの場合は、素子の性能を決める分子軌道の波動関数が電極上の電子軌道と混ざり合い、複雑な挙動を示すので、電極の電気特性と分子デバイスの電気特性の相関を明らかにすることが必要である。こうした局所的な電子状態はバルク単結晶と孤立分子の中間に位置づけられるもので、その理解には孤立分子を拡張していくアプローチとバルクの物質を微細化していくアプローチの両方が必要である。その際に考えなくてはならないのは、電子の粒子性と波動性の両方がどのように顔を出してくるかということである。例えば電子の粒子性から来る電子間反発について、バルクで現れる現象は「電子相関」であるが、単分子の現象では「クーロンブロッケード」であり、両者には何らかの類似点があるはずである。しかし、その中間のサイズの系で電子がどのような挙動を示すかという点についてまだ十分な研究が行われていない。同様に無限に均一な固体中の「バンド」と理想孤立分子の「波動関数」の間にどのような局所的電子状態があるのか、充分解明されていない。本研究では、バルクで素性の分かっている単結晶を微細化することによって、分子が互いに相互作用しながら集団としてどのような局所的電子状態を作り出すのか、という点を明らかにする。そして、そのような知見を基本にして、分子の協奏的相互作用が生み出す新しい電子物性の発現を目指す。こうした研究を行うための手段として、当該チームは分子性導体のナノ単結晶をシリコン基板上で成長させるという技術をこれまでに開発してきた。これは分子性導体の単結晶が電気分解によって電極上に直接成長するという性質を利用したものである。分子性導体はドナー分子を部分酸化(またはアクセプター分子を部分還元)して作製されるため、このようなことが可能となった。この手法の利点は分子が結晶の場において自己組織的に整列し、電極の形に合わせて結晶ができ上がる点である。従って、通常のカーボンペーストによる電極付けや、金蒸着による電極付け等の、結晶構造を乱すような工程を含まず、より密接した電極と分子との接触界面を形成させることができる。また、通常の単分子トランジスタでは分子の位置や向きを観察することは非常に困難であるが、結晶はその外形から分子の配列を決定することができる点もこの手法のメリットである。 ![]() 本研究の独創性は、究極的には一分子層の界面制御形成により、その上に形成される有機分子薄膜の電子物性を制御することを目指すところにある。当該チームは、これまでの表面界面研究を通じて表面上一層の分子の電子状態が分子固有のものと全く異なることを長年にわたり研究してきた。本研究では、その経験を生かし、表面一層程度の原子分子層により界面状態を制御できる方法を積極的に利用し、有機分子薄膜の電子物性研究を通じて応用展開に寄与する。 有機分子薄膜の電界効果は、機能分子の多彩な設計に大きな寄与が期待できる。ここでの技術開発の鍵は、基板と有機分子界面に形成される状態をいかに制御するかである。有機分子薄膜の研究、電界をかけるための電極を含むシステム設計等は様々な研究機関で行われており、当該チームが計画している界面制御と合わせれば、安定なデバイス創出につながることが期待される。 ↑研究テーマ 有機金属錯体は均一系触媒として機能するだけでなく、導電性や光物性を有する機能性材料としても活用され様々な分野の発展に貢献してきたが、期待されるレベルの高さからみれば現状は到底満足できる状態ではない。この分野における飛躍的進歩をもたらすためには、有機金属錯体の特性を最大限に活用し斬新な分子設計に基づく新規錯体の開発は極めて重要である。本研究では、希土類金属を中心とする新しい有機金属錯体の開発に重点を置き、各種金属の特長を生かした単核錯体から特異な協同効果が期待できる同種または異種金属多核錯体まで高度に制御された様々な有機金属錯体について、錯体の構造と反応性・触媒活性や物性との関連、理論計算による電子論的解析等、様々な角度から幅広く検討し、これまで実現できなかった新しい反応性や機能性を有する錯体の開発を目指す。特に、従来の錯体では実現困難な新しい物質変換反応の開拓や機能性の発現を念頭に入れ、これまでほとんど研究されていなかった複数の活性サイトを有する新規希土類ポリヒドリドクラスターや特異な基質協同活性化効果が期待できるd-fブロック金属混合型錯体について重点的に研究する。 本研究で開発される希土類ポリヒドリドクラスターやd-f混合金属錯体は隣接同種または異種金属による特異な協同効果を発揮しこれまでにない新規な錯体触媒や機能性材料になることが大いに期待できる。例えば、これまで当チームが開発した幾つかの多核希土類ポリヒドリド錯体はクラスター骨格を保持しながら特異な反応性を示し、新規触媒として機能できることが明らかになりつつある。また最近合成に成功したd-f混合金属ヒドリド錯体は水素と可逆的に反応することが判明し、新規水素貯蔵材料の開発へつながることが期待できる。周期表全域に広がる金属元素の多様性と相互作用する配位子の豊富さ、さらにそれらの組み合わせや結合様式の様々な変化等を考え合わせると、d-f遷移金属クラスターの創成はこれまでにない新触媒や新規機能性材料の開発につながり、様々な分野に対して大きな波及効果が期待できる。 ![]() ↑研究テーマ タンパク質と低分子化合物の相互作用とは、化学的結合を意味する。分子の電子状態により、共有結合や、水素結合、疎水結合、イオン結合等の比較的弱い非共有結合が知られており、これらの結合が複合的に機能することでタンパク質の機能が制御され、生命活動が維持されている。 本研究では、生命現象を制御する低分子化合物(バイオプローブ)と生体分子であるタンパク質との相互作用を、測定・解析グループと協力して分子レベルで解析し、その結果を基に新たなバイオプローブを創製することを目的とする。バイオプローブの電子状態を制御すること、つまりバイオプローブの官能基を置換することでタンパク質との非共有結合的相互作用を解析する。NMRおよびX線結晶構造解析データと、計算化学的な手法との融合させることで、タンパク質と低分子化合物の結合様式を解析し、タンパク質活性化の分子メカニズムを解明する。 ある特定の情報伝達タンパク質や酵素に対する生理的なリガンドや基質が知られていても、それらは必ずしも構造解析に適したものではない場合も多い。本研究では、タンパク質の活性構造、不活性構造を各々安定化する分子や、酵素により分解されない基質ミミック分子等を独自に設計・合成することにより、特異的な活性化剤や阻害剤を開発し、これらを用いて複合体の構造解析を可能にしようとすることを特色とする。また、それらの分子は構造解析に寄与するばかりでなく、細胞内情報伝達機構解明のためのプローブとしても期待される。 細胞内情報伝達酵素の活性化剤や阻害剤は、医薬候補として非常に重要であることから、国内外でその開発研究が活発に行われている。しかし、それを利用して構造解析を目指すという積極的な視点での研究はほとんどないと思われる。当該チームでは、早い時期から細胞内情報伝達タンパク質に着目し、その結合分子の開発に取り組んでいる。本研究により、構造解析グループとの密な連携が可能になれば、細胞内情報伝達タンパク質のダイナミックな構造変化を捉えることが可能になるものと期待される。また、優れた低分子化合物の開発に成功すれば、医薬リードとなることも期待される。 ![]() ↑研究テーマ GFP (Green Fluorescent Protein)として知られるオワンクラゲ由来の蛍光タンパク質は、現代の分子生物学や細胞生物学等の分野で欠かすことのできないプローブとして広く利用されている。例えば、生きた細胞内でのタンパク質の分布を観測する際には欠かせない存在となっている。GFPでは、発色団がアミノ酸の環化によって自動的に形成され、co-factorを必要とすること無く蛍光を発することができる。この発色団周辺のアミノ酸に差異を導入して、シアンや黄色の蛍光を発するようなGFP変異体を得ることができる。近年では、GFPの変異では実現できなかった赤色の蛍光を発する蛍光タンパク質もサンゴからクローニングされ、さらにカルシウムイオン存在下で光るものやレーザーの照射により蛍光色が緑色から赤色に変化する蛍光タンパク質等、新たな機能を導入した蛍光タンパク質が開発されている。特に、当該チームによって発見された、フォトクロミック蛍光を示すタンパク質は、「分子メモリーシステム」の観点からも注目されている。しかし、新規の蛍光タンパク質を設計する(色や明るさを変える、あるいは新たな機能を導入する)ために不可欠な「発色のメカニズム」には依然として不明な点が多い。蛍光タンパク質の発色には、発色団周辺の立体構造、電荷分布、静電的およびπ-π stacking相互作用が協奏的に関与している。そこで、測定・解析グループと協力して、蛍光タンパク質のX線単結晶構造解析等を系統的に行って構造・機能相関を明らかにし、光励起による電子やプロトン移動に関する理解を深め、より優れた蛍光タンパク質、および蛍光プローブの設計・作成を行う。 具体的には、日本近海に棲息する様々な刺胞動物から、数多くの新規蛍光タンパク質の遺伝子をクローニングする。それらの三次元構造を、結晶構造解析、NMR解析で明らかにし、様々な蛍光特性の構造的基盤(具体的なテーマを以下に記す)を追究する。 ![]() ・タンパク質翻訳後に自己触媒的に起こる発色団形成 ・発色団を取り巻く水素結合ネットワークと光励起によって起こるプロトン移動 ・光照射によって起こるベータ脱離反応と発色団再編成 蛍光タンパク質の新奇遺伝子クローニングおよび改良は世界的に数箇所の研究室で行われているが、新しい蛍光特性を実現し、それを学際的に究明し、さらに新しいイメージングモダリティを提唱するのは当該チームだけである。 本研究における蛍光タンパク質の物性研究を通し、より優れた、または全く新奇の特性を持つ蛍光タンパク質・蛍光プローブの開発が期待できる。これは、蛍光イメージングの技術革新につながる。ポストゲノム時代にあって、生きた細胞内で起こる生体分子の動態(分子間相互作用や分子の構造変化等)を可視化する必要性が叫ばれている。蛍光タンパク質・蛍光プローブの開発や改善は、細胞現象の動的な理解に貢献する。創薬産業の領域では、生きた細胞を使って医薬品を開発する技術が求められている。アカデミックな成果をもとに、より多くのアッセイ系が構築され、ドラッグスクリーニングの効率向上が図られることが期待される。当該チームの成果は日本近海の刺胞動物に由来しており、日本の製薬産業も安価で使用することができる。また、蛍光タンパク質をナノメモリーとして利用する高密度記録デバイスの開発、ある蛍光タンパク質の自己集合体の特性を利用する光スイッチデバイスの開発等、環境にやさしい材料を創る産業に向かう展開も期待される。 ↑研究テーマ
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制御・開発グループと協力し、広範囲にわたる分子系が示す種々の複雑な現象・機能を局所的電子状態の協奏的連携による分子間相互作用の発現として理解し統一的原理の構築を目指す。特に、「生体物質の機能の電子論的究明」を大目標の一つとして設定する。 ![]()
分子性結晶から生体高分子にいたる幅広い分子の機能(性質)を、電子状態を基盤に明らかにしていくための基盤技術として、放射光X線および超高感度NMRは欠かせないツールである。これら基盤技術を用いて、独自研究を行っていくとともに、大学等機関との共同研究を通して、新規試料への展開ならびに新規測定・解析技術の開発を大きな目的とする。 X線結晶回折、X線粉末回折、X線小角散乱等方法を用いて、上記目的に適合する高品質なデータを得るためには、SPring-8の利用は必須であり、逆に言えばSPring-8に本拠を持つ当グループは、研究手段、独創性、特色すべての面において本研究テーマ遂行に最適な位置にある。1997年の供用開始以来、当該チームの研究者はSPring-8における研究活動に深く関わり、その業績もそれぞれの分野において世界的に高い評価を得ている。 また、国家プロジェクト「タンパク3000」を経験することにより、超高感度NMR法はその試料調製技術、測定技術、解析技術が飛躍的に進歩した。当グループはそれら技術を積極的に導入しており、技術面、業績面においても世界に遜色ない。 (1) タンパク質間あるいはタンパク質内相互作用のダイナミクスと電子状態制御(城) ![]() 生物界では、細胞が外界からの刺激に応答する際に、刺激→タンパク質A(センサー)→タンパク質B・・・タンパク質X(転写因子)→遺伝子 の情報の流れに従うシステムが存在する。この情報伝達は、タンパク質内、タンパク質間、タンパク質−核酸間の弱い相互作用の変化を通して行われている。さらに、センサー部位に金属イオンを有するタンパク質では、刺激(リガンド)−金属相互作用による、金属の電子状態変化や配位構造変化、さらにそれによって誘起されるタンパク質の局所構造変化が、刺激感知機構の初発反応として極めて重要である。本テーマでは、生理的に極めて重要な、センサー部位に鉄を含む酸素センサータンパク質と銅を含むエチレンセンサータンパク質(植物ホルモン受容体)を研究対象として、その情報伝達機構(センサー機能)を、上記観点から解き明かす。実際には、 @ 活性型と不活性型の構造比較から構造変化を浮き彫りにする、 A 活性型から不活性型への構造変化のダイナミクス の順序で取り組む。また、生物科学研究において極めて有用な各種蛍光タンパク質を試料として取り上げ、それらの構造解析をとおして、色素(クロモフォア)とその周辺との相互作用を原子分解能で明らかにし、その電子構造がいかに制御されているか、蛍光の有無、蛍光色の変化の決定因子等を詳細に検討する。光照射下での構造解析から、色素の励起状態と構造、相互作用変化の議論を展開し、より精緻な蛍光タンパク質設計の情報とする。 構造生物学的手法は現代生物科学研究の一つの流れであり、生理機能発現の上での水素結合、静電的相互作用、疎水性相互作用等の重要性も広く認知されている。その意味からは、本研究の視点はそれほど目新しいものではない。しかし、実際にはセンサータンパク質のような複雑な系で、この視点からの研究に成功した例は皆無である。さらに、タンパク質が機能を示す時にこれら相互作用がいかにダイナミックに変化しているのかを解き明かす試みに成功した例は極めて少ない。放射光X線が自由に取り扱うことができ、その周辺技術開発の蓄積を持つ研究グループのみが達成できる目標である。実際、当該チームは既に、 ![]() A 低分解能ではあるが、活性型全長センサータンパク質の構造も得ている。 B ヘモグロビンを例に、酸素−鉄結合開裂時の短寿命反応中間体の構造解析に成功している。 C いくつかの蛍光タンパク質の構造解析にも成功し、さらに数十種類の蛍光タンパク質の結晶化にも取り組んでいる。 現在、構造生物学は隆盛であり、タンパク質の結晶構造解析に関わる研究グループは世界中に大変多い。しかし、当該チームは、「生物学を生体分子の集合体として理解し、それら分子は必ず物理や化学の法則、規則に従って機能している」との認識にたって研究を行ってきたことを強調したい。一方、センサータンパク質が発見されたのが15年程前であり、その構造生物学的な研究はまだ少ない。当該チームは発見の初期からこの研究に取り組み、少しずつではあるが研究遂行上の困難を克服してきた。さらに、当該チームはSPring-8ビームライン建設にも深く関与したことから、周辺機器の開発にも実績がある。また、蛍光タンパク質の構造研究は、理研脳センターとの共同研究であり、豊富なバイオリソースを有しなおかつSPring-8に深く関わる理研ならではの研究テーマである。 エチレンは植物の生活環に深く関わる植物ホルモンであるため、その受容体(エチレンセンサータンパク質)の構造と機能の関連が明らかにされれば、植物の生育を自由に制御できる手がかりが得られる。またこれらセンサータンパク質は、生物界に広く存在するにもかかわらず、動物には存在しないと言われている。すなわち、その機能メカニズムが詳細に分かれば、動物に副作用のない薬剤の創成が可能である。蛍光タンパク質は細胞生物学研究に極めて有用なマーカーであり、用途に合わせた蛍光タンパク質の分子設計が可能となる。これらの研究は、学術的な面では、極めてシンプルであるが、高機能、高効率な電子状態・生理機能の制御機構に関する知識を得ることができ、応用面では、その知識を基礎とした新しい物性や制御機能を持つ物質の創成を目指す手がかりとなる。 ↑研究テーマ (2) 放射光X線による分子性結晶ならびにタンパク質の分子内・分子間の電子分布マッピング解析(高田) 放射光の高輝度・高平行X線による回折データから、情報理論より発展したマキシマムエントロピー法(MEM)を用いて、分子性結晶の分子および分子間の電子分布マッピングを行い、分子・原子の結合形態・電荷整列・電荷移動の直接観察から分子系物性と構造との精緻な関係を明らかにする。また、ピコ秒時間分解回折実験による電子密度マッピングも試み、ガス吸着現象、光誘起現象等の解明にも寄与する。さらに、単結晶構造X線データとMEMを用いて、タンパク質等の巨大分子の電子マッピングも行い、活性部位の結合形態・電荷移動等についても明らかにし、電子が関与するタンパク質分子の機能解明のための精緻な構造情報を明らかにする。 ![]() @ ナノ細孔を持つ集積型錯体への気体分子吸着等について、細孔と気体分子の相互作用を明らかにする。 A 圧力、温度、光等によって誘起された金属絶縁体転移等に伴う電荷移動・電荷整列等を明らかにする。 また、BL40XU等のアンジュレータービームラインを用いて、放射光の高輝度とパルス特性を生かした時分割X線回折実験を行い、光誘起現象等を対象(分子性導体EDO-TTF塩やスピンクロスオーバー錯体等)にピコ秒の電子マップの変化を直接観察する。さらには、実験的に得られた詳細な電子密度から詳細な静電ポテンシャルを実験的に導き出す手法の開発、ならびに制御・開発研究グループ内で創製された新規物質について、上記の研究を遂行していく。国内外において、上記の研究を遂行できるのはSPring-8に拠点を持ち、MEM/Rietveld法等の独自の解析法を持つ当該チームのみである。 現在の研究(準備)状況について述べる。大型デバイシェラーカメラによる実験法やMEMによる解析手法の基本的な部分は完成しており、成果を輩出している。しかし、光照射下、圧力下での粉末回折実験については、まだ、データ精度向上のための実験技術開発を要する。その完成により、これらの特殊条件化の回折実験を汎用基盤技術として確立できるものと期待される。また、時分割回折実験装置も立ち上げ中である。よって、研究準備は、ほぼ整いつつある。静電ポテンシャルの解析手法については現在検討中である。 これまでは、構造情報として原子レベルでの構造による物性との関係を明らかにする研究が、構造物性・構造生物の研究として認識されてきた。しかし、物性を支配する因子である電子を実空間で直接観察することは、分子物性の研究を飛躍的に進展させるものである。また、スペクトロスコピーや理論計算による結果とのより密接な研究の相補性を構築することになる。 ↑研究テーマ (3) 高分解能NMRによる生体分子の構造解析(伊藤) 高分解能NMR法について方法論的な研究を行い、これまで実現が困難であった、 @ 100 kDaを超える高分子量タンパク質または高分子量タンパク質複合体の高次構造や相互作用の詳細な解析 A 生体内におけるタンパク質の動態(高次構造、タンパク質修飾、相互作用等)のその場観察 等を可能にする。 100 kDaを超える高分子量タンパク質または高分子量タンパク質複合体の高次構造や相互作用の詳細な解析については、試料調製法、NMR測定法、NMR解析法の3つの要素技術についてそれぞれ研究を行っていく。試料調製法としては重水素化と選択的プロトン標識技術を中心に開発を行う。NMR測定法としては、高分子量試料の低感度とシグナルのオーバーラップの問題を克服するような、新しい溶液NMR測定法の開発を行う。NMR解析法としては、高分子量試料に最適化したNMRシグナル帰属法、高次構造解析法について開発研究を行っていく。生体内におけるタンパク質の動態のその場観察については、In-Cell NMRの手法の高度化を行っていく。In-Cell NMRは生細胞内の生体高分子について、異種核多次元NMR法を適用するものである。In-Cell NMRにおいては対象が生きた細胞となるため、NMR測定の高感度化や測定時間の短縮といったNMR測定法からのアプローチ、生細胞における安定同位体標識タンパク質の調製や、測定試料の長寿命化といった生物工学的手法からのアプローチから研究を行っていく。 NMRにおける「分子量の壁」は、高分子量試料に最適化された試料調製法と、NMR測定法、解析法といった、様々な要素技術の改良を総合して乗り越えられると考えられる。本研究の特色はこの3点について総合的に取り組み、最適化された高分子タンパク質複合体の高次構造解析システムを構築することにある。細胞内タンパク質の選択的多次元NMR測定であるIn-Cell NMR法により、アミノ酸残基レベルの分解能での解析が期待できる。In-Cell NMR法では標的となるタンパク質を安定同位体標識する必要があるが、安定同位体による標識は分子機能を損なわない非侵襲的なものであり、またタンパク質の特定部位のみ、または全体を均一に標識することができるため、詳細なタンパク質間相互作用の情報を簡便に得ることができると期待される。 ![]() 高分子量タンパク質のNMR解析については、スイス連邦工科大学のKurt Wurthrichらのグループ、トロント大学のLewis Kayらのグループをはじめとして、海外のいくつかのグループが先駆的な方法論の研究を行っている。国内においても、大阪大学蛋白研の阿久津教授のグループ、北海道大学薬学部の稲垣教授のグループ、東京都立大の甲斐荘教授のグループ等が高分子量タンパク質の解析を進めているが、その中にあって、当該チームはNMR測定法を中心とした方法論的研究とそのアプリケーションの面で特に実績と経験があると言える。In-Cell NMR法についてはバクテリアを試料として、海外からの数報の報告が見受けられる.国内からの報告はまだないが、当該チームと京都大学の白川教授のグループが他のグループに先駆けてIn-Cell NMR研究を進めている。特に当該チームは、大腸菌の系を用いたIn-Cell NMRの方法論的研究で知見を積んできており、生細胞内タンパク質の構造解析を試みている現在国内唯一のグループである。 高分子タンパク質複合体の溶液構造決定法が確立すれば、解析可能なタンパク質間相互作用の総数が飛躍的に増加する。この結果、多数の系で細胞内に近い溶液条件の構造情報を用いて、機能発現のメカニズムの理解が可能になる。また本研究で開発されるべき技術は、分子生物学、生化学の領域に大きく普及すると考えられるし、さらには生物工学、創薬といった産業界にも大きなインパクトを与えるものとなると考えられる。In-Cell NMR法が汎用性のある技術に発展すれば、生体内における様々なタンパク質の立体構造と活性の相関の解析が可能になる。また、In-Cell NMRは、創薬研究の新規基盤技術を与えることも期待される。例えば標的となる安定同位体標識タンパク質を含む細胞を測定視野に置きIn-Cell NMRスペクトルを測定しながら、フローの機構を用いてリガンドの候補を次々と流すことによって、詳細かつ迅速なスクリーニングが可能になる。 ↑研究テーマ 軟X線分光を通して、分子、および分子集合体の電子状態を解明する。軟X線分光を、例えば金属タンパク質に適用すると、以下のようなメリットがある。 軟X線吸収スペクトルは、遷移金属の非占有状態を観測できる。内殻を用いるために何万とある分子のうち、遷移金属のみの電子状態を観測できる。一方、軟X線発光スペクトルは占有状態を観測できる。従って、吸収と発光を両方あわせるとすべての電子状態を観測できる。また、ともに電子を測定するわけでないので、水を含んだ絶縁体でも観測できる。 生体物質や水を含む物質の電子状態を軟X線で観測できるのは世界でも当該チームだけである。本研究では、高分解能化や水を含んだ試料まわりの装置開発を行い、タンパク質中の遷移金属に注目した電子状態を観測し、その化学的活性状態等を電子論的に明らかにする。 ![]() ![]() ![]() ![]() ↑研究テーマ ミュオンはその寿命は2.2 m秒で、質量は陽子の1/9または電子の207倍である。従って、物質中で正ミュオンは"軽い陽子"、負ミュオンは"重い電子"として振る舞う。さらに、ミュオンは生まれながらにしてそのスピンが偏極しているので、ミュオン静止位置での局所場の測定やその揺らぎの観測が可能となる。ミュオンスピンを測定して物性研究を行う方法にミュオンスピン回転、緩和、共鳴法(μSR法)がある。ミュオンはスピン偏極が備わっている高感度なプロープなので、ゼロ磁場での局所場研究、スピンをもたない原子核で構成する系の磁性研究、広範囲な温度領域での物性測定等に利用することができる。また、μSR法による局所場のゆらぎの観測時間領域は10-6-10-11秒で、中性子散乱実験(ー10-12秒)やNMR(>10-6秒)では観測が困難な中間周波数領域を幅広く研究できるという特色を持つ。 このμSR実験手法を分子集合体、強相関電子系、生体分子複合体等に適用すると、それらの電子構造、超伝導性、磁性、分子構造、結晶構造等の研究を行うことでき、さらに新機能物質開発や生体分子機能解明へと研究を発展させることが期待できる。 理化学研究所は、英国Rutherford Appleton Laboratory (RAL)と「ミュオン科学研究に関する国際研究協力協定」を締結し、世界最強のパルス状ミュオンを発生する「理研-RALミュオン施設」をRALに建設した。当該チームは、1995年から現在に至るまで、μSR実験法を応用した世界トップレベルのミュオン物性研究を推進してきている。 本研究の目標は、これまで培ってきたμSR実験法によるミュオン物性研究をより高度に広範囲に展開することである。微量な新機能物質(分子集合体、強相関電子系、生体分子複合体等)の高精度物性測定を可能にする新規のμSRスペクトロメーター装置の開発・設計・製作をし、μSR実験法を用いる多くの分野の研究者間の研究交流を図り、複合的ミュオン科学物性研究創生を推進する。また、世界で唯一となる多重極限下(高磁場、高圧、超低温、高温、電場印加、レーザー照射等)におけるμSR実験測定を実現し、これらの外部実験条件とパルス状ミュオンビームの特性を生かした先端的μSR実験技法の確立を目指す。 ![]() ・ 高精度物性測定用μSRスペクトロメーターの製作 ・ 縦磁場発生用超伝導電磁石の製作 ・ 試料冷却用冷凍機(希釈冷凍機、VARIOX冷凍機、フロー型クライオスタット)の製作 ・ チェレンコフ発光原理を用いた高い指向性を有するμSRスペクトロメーター用μ-e崩壊電子検出器の開発 が挙げられる。理研-RALミュオン施設では、ダブルミュオンパルスを2つのシングルパルスに分離し2つの実験ポートに輸送できるので、シングルパルスを使ったミュオン実験が同時に2つ実行可能である。従って、本研究課題で新規に製作する高精度物性測定用μSRスペクトロメーターと現存するμSRスペクトロメーターを使用して2つのミュオン物性実験を同時に実行することが可能になり、実験効率を大幅に高めることができる。また、2つのμSRスペクトロメーターを備えることにより、実験試料交換や実験温度設定等に必要となるロスタイムを大幅に軽減することができる。さらに並行して、高磁場、高圧、超低温、高温、電場印加、レーザー照射等の外部条件下でのμSR実験装置の開発を行い、これらの外部実験条件(または、それらの組み合せ)とパルス状ミュオンビームの特性を生かした先端的μSR実験方法(高周波RF共鳴法、準位交差共鳴法、レーザー共鳴法等)の開発を計画している。そして、本研究課題を通して、新機能物質(分子集合体等)の高精度なミュオン物性研究を展開する。また、μ-e崩壊電子が発光物質中を通過する時に発生する指向性の高いチェレンコフ光を測定する検出器を開発し、それをμSRスペクトロメーター用検出器に応用する開発研究を行う。 国内での研究状況に関しては、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所のミュオン科学実験施設がミュオン物性共同利用実験をこれまで推進してきた。ところが、J-PARC建設に伴い、平成17年度末をもってその施設は閉鎖された。その後、KEKに現存するミュオンビームラインや実験設備はJ-PARC建設サイトに移設されて、ミュオン施設建設が進められる予定である。このため、国内のミュオン科学者にとって理研-RALミュオン施設でのミュオン物性研究は、ますますその重要度を増してくる。さらに、J-PARC運用開始後もかなりの期間は、J-PARCミュオン施設はビーム強度や実験ポート数等必ずしも十分でない状況が続くことが想定され、理研-RALミュオン施設でのミュオン物性科学研究の推進は、引き続き、学問的にも重要な意義を持ち続ける。さらに、本研究課題の遂行を通して理研-RALミュオン施設が培った世界最高水準で唯一の多重極限条件下μSR実験手法やその開発に関わった人材や技術は、J-PARCでのミュオン科学研究の展開に大きく貢献することが期待できる。 海外でのミュオン物性研究拠点としては、TRIUMF研究所(カナダ)とPSI研究所(スイス)が挙げられる。この2つの研究所では、連続状ミュオンビームの特性を生かしたミュオン物性実験が進められている。理研-RALミュオン施設では世界最強度のパルス状ミュオンビームの特性を生かした実験を行っているが、これら2種類のミュオンビームから生み出される実験データは互いに相補的であり、両者の実験データを照合することは学問的に大変意義深い。 ↑研究テーマ
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